MLB投手のうち26%が尺側側副靭帯(UCL)再建術(通称トミージョン手術)を受けている。マイナーリーグ(MiLB)投手のUCL再建術は19%であったが、件数からだとMiLBの選手の方が4倍以上である。UCL再建術の87%は投手である。MLB投手の68%が26歳以降にUCL再建術を受けていたの対し、MiLB投手の88%は25歳以下で受けていた(Leland 2019)。
UCL再建術後MLB投手の平均プレー年数4.8年
UCL再建術の復帰率はMLB投手で80%、MiLB投手で69%であった(Camp 2018)。これは手術云々でなく、選手のプロとしての能力(契約)によるものである。UCL再建術後の現役選手の平均年数は、MLB投手で4.8年、MiLBが3.2年であった。これも選手としての契約の違いからである(Leland 2019)。
術後7–9ヵ月でブルペン
プロ野球投手の81%はUCL再建術後2 週目からリハビリを始め、術後5–6ヵ月から最大46 mの遠投を始め,52%の投手は術後7–9ヵ月からブルペンで投球を始める(Camp 2021)。
浅指屈筋、尺側手根屈筋、上腕筋がUCL損傷を最小限
UCL損傷予防に関して浅指屈筋がある(Frangiamore 2018)。浅指屈筋は尺骨隆起内側およびUCL前斜走靭帯に付着し,上腕骨内側上顆までの前方内側関節包に付着している。しかし直接浅指屈筋の腱が内側腕尺関節をまたがっているわけではない。特に第5指と第2指の起始がUCL前斜走靭帯にアプローチしている(Hoshika 2019; Matsuzawa 2020)。浅指屈筋に加えて尺側手根屈筋もUCL前斜走靭帯にアプローチしている(Frangiamore 2018)。もう一つ上腕筋がある。上腕二頭筋の後ろを走行していて、 尺骨に停止していることから前腕回内運動に影響しない。その停止部が尺骨鉤状突起であるためUCL損傷予防に貢献している(Hoshika 2019)。以上この3つに筋腱がUCL損傷を最小限に防ぐことができるかもしれない。
図:浅指屈筋[ Flexor Digitorum Superficialis (FDS)]は尺骨隆起内側および前斜走靭帯(ABUCL)に付着し,上腕骨内側上顆までの前方内側関節包に付着している。尺側手根屈筋 [Flexor Carpi Ulnaris (FCU)]は鉤状結節(sublime tubercle)と尺骨隆起に付着し,UCLの前斜走靭帯と横走靭帯(OBUCL)および筋線維は横走靭帯付着。上腕筋(Brachialis)は尺骨粗面に広く付着し,鉤状突起(coronoid process)遠位部と鉤状結節(sublime tubercle)および尺骨隆起に付着。(Frangiamore 2018)
致命的な遠位部(尺骨側)損傷
遠位部の損傷が再建術に関係する.(米国)プロ野球投手で遠位部の損傷のうち82%は症状の改善がみられなかった.しかし近位部を損傷した81%は保存治療で症状の改善がみられた.遠位部の損傷は12.4 倍の確立で保存治療による改善は見込まれない(Fragiamore 2017)。
腕尺関節において前斜走靭帯の遠位部が最も肘に対する外反力に抵抗し、腕尺関節の安定に貢献している。従って前斜走靭帯の遠位部で特に後方遠位部(写真のPD: Posterior Distal)が損傷すると外反制動を失うことになる。肘関節が屈曲すればするほど後方遠位部(PD)の貢献は増加し、伸展すればするほど前方遠位部(AD)の貢献が増加(Frangiamore 2017)。このことから前斜走靭帯後方遠位部の損傷は投球動作のコッキング後期に発生する。
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