投球・サーブ障害肩予防トレーニング

カテゴリー: 体幹エクササイズ

腰痛予防と内腹斜筋

腰痛の原因に内腹斜筋の不均等な筋活動が指摘されている。内腹斜筋は胸腰筋膜を介して腰椎を安定させている。たとえば思春期後期のサッカー選手の腰痛は内腹斜筋の左右不均等があるLinek 2018)。また腰多裂筋も直立位において腰椎を安定させている(Hides 2016)。このことから腰痛は腰多裂筋の萎縮にも関係しているGoubert 2017)。

図はOatis 2004から転用。Internal Oblique:内腹斜筋。

図はOatis 2004から転用。Multifidus:(腰)多裂筋。股関節屈曲筋である腸腰筋に対しての拮抗筋。

上肢の運動と立位の研究から内腹斜筋は片足の荷重側において活性し、腰多裂筋はタンデム立ちで活性する(コアスタビリティエクササイズ)。投球やサッカーボールを蹴るなどの全身スキル運動において体幹の筋群は下肢から上肢への連動に不可欠であるKibler 2006)。

体幹筋の活性は最大筋力10%

日常生活での体幹筋は最大筋収縮の5%、激しい運動でも10%程度しか活動していないKibler 2006)。体幹筋は随意運動でなくむしろ不随運動である。この場合の不随運動は脊髄反射でなく、脳幹から下降している錐体外路の命令(神経学的な言い方)のことである。錐体外路は、さまざまな情報を受けて随意運動の遂行、達成を補助している(Lemon 2008)。

あお向けや横に寝た姿勢でのエクササイズ

内腹斜筋を活性させる運動として片足ブリッジ、バードドッグ、プランクエクササイズが挙げられている。あお向けや四つんばいでの体幹エクササイズは随意運動として体幹筋を活性することができる。しかし片足ブリッジ(Stevens 2006)、バードドッグ、プランクエクササイズ(Imai 2010)での内腹斜筋の筋活動はせいぜい最大筋活動の20 – 40%である。直径65 cmのゴムボール(通称Swiss Ball)を使ってロールアウト、パイク、スキーヤーエクササイズでも最大筋活動の40 – 50%程度であるEscamilla 2010)。

写真はパイク(左)、スキーヤー(右)エクササイズ(Escamilla 2010

内腹斜筋最大筋出力の測定方法

ちなみに筋電図で内腹斜筋の最大筋出力を測定する方法は、まず被験者にあお向けに寝てもらい股関節と膝関節を45°に曲げてへそを背骨に吸い込ませるようにドローインしてもらう。それを保ちながら肩甲骨が床から上がるか否かの高さで最大のアブドミナルクランチをしてもらい、そこから検者が被験者の両肩を上から最大に押した値を最大出力(100%)としている。被験者も検者も結構必死になって最大値を決めている。

ツイストエクササイズ

特注のツイスト盤の上で被験者に盤の上でツイストしてもらった。盤は下の土台に対し上の円盤が回転するような仕組みである。被験者には毎分90回と150回のメトロノームに合わせて左右各45°の合計90°のツイストを20秒間してもらった。また各速度において1)膝伸展位2)膝関節30°に曲げた運動ポジション3)スクワットの姿勢から一つの方向に膝伸展、逆方向に膝屈伸のスクワットの3種類のツイストを行ってもらった。どのツイスト運動においても両肩は極力正面に向けた姿勢を保ってもらい、腕はフリーに動かしてもらった(Tsuruike 2020)。

 

写真は膝伸展(左)、運動ポジション(右)

毎分150のメトロノームに合わせた膝伸展ツイスト運動の動画:

結果、膝伸展を保ちながら毎分150回のツイストで内腹斜筋は最大筋力の60%以上を活性させることができた。実験データの有効性を確保するために被験者にはツイスト運動の後に片足ブリッジ、バードドッグ、かかとと膝がしらのラインを整えた片膝つき姿勢で内腹斜筋を測定したが、どの運動も最大筋力20%にも達しなかった。

図は毎分150回のツイスト運動中の内腹斜筋の筋電活動。SLは膝伸展、APは膝屈曲位30°の運動ポジション、DEは連続スクワット。DOMは利き脚(ボールを蹴る側)(黒)NONは非利き脚(軸足側)(灰色)。縦軸は最大筋出力の割合(%)* P < 0.05

   

写真は片足ブリッジ(左)、バードドッグ(真ん中)片足膝たち姿勢(右)

腰方形筋と横隔膜

体幹の動きに働く筋としては腰方形筋がある。腰方形筋は前額面の安定だけでなく体前屈、伸展、体側にも働く。さらに横隔膜の働きも腹内圧を高めることから体幹の安定に欠かせない。しかし腰方形筋と横隔膜の働きが腰痛を予防しているかは明らかでない。

内腹斜筋のトレーニング

内腹斜筋は股関節屈曲にも共同筋として働いている(Pereira 2017)。その上で内腹斜筋を鍛えるなら立位で膝伸展ツイストするか、データはないがサウンドバッグでキックしその時の荷重側の地面反力で鍛えるかになりそうである。しかしその際、荷重側の大殿筋が抗重力筋として働いているなら股関節屈曲筋は相反抑制になり、その結果内腹斜筋が働くかどうかわからない。

コアスタビリティエクササイズ

事前にプログラムされた筋活動

コア(体幹)は、文字通り体の中心のことで、運動中の下肢からの力あるいはエネルギーを効率よく上肢に伝え、実際の投球やサーブなど腕の早い動きはコアの始動があってのことであるKibler 2006)。そしてキネティックリンク(連動)エクササイズとしてテニスなどメディシンボールエクササイズをよく用いている。

メディシンボール後ろ投げ

Functional Movement Screen®(FMS®)にRotary Stability、Push-up、Hurdle Step(Stepping)によるコアスタビリティ評価がある(下の図参照)。FMSは動きのパターンを評価しているのだが、これら3つのコアスタビリティ評価の得点とメディシンボール(2.72 kg)後ろ投げに有意な相関関係があったOkada 2010)。メディシンボールの後ろ投げは瞬発力を測るとも言われている(Beckham 2020)。しかしメディシンボール後ろ投げには賛否両論もあり、特に技術的な要因もあってか統計的信頼性(反復性)に疑問が残る。さらにフットボールやラグビーなど全身瞬発力が求められる選手でも、その種目特異性とメディシンボール後ろ投げに相関関係があるかと言えばそうでもないMayhew 2005; Duncan 2005)。

 

写真メディシンボール後ろ投げはOkada 2010から転用。

女子選手のACL損傷予防とコア

ラボデータではあるが女子選手の膝ACL損傷予防と体幹の反応力に関係があるようだZazulak 2007; Zazulak 2007; Noehren 2014)。

 

図は体幹の反応速度を測定(Zazulak 2007)。写真は体幹の安定性をボールに座って測定(Noehren 2014)。

コアエクササイズと競技力

コアエクササイズを取り入れたからといって競技パフォーマンスが向上するかはわからない。思春期のクロスカントリー(Clark 2017)やサッカー選手(Prieske 2016)において競技力向上にコアエクササイズの有無の有意差はなかった。またトップスピードから急な方向転換において体幹安定の高いグループとそうでないグループ間でパフォーマンステストを調べた研究もあった(Edwards 2016)がどれをとっても期待する結果を導き出すことができなかった。スポーツの奥の深さがうかがえ、スキルと測定による予測の難しさが分かる。

上肢の動きと逆側の体幹筋

腕を急激に上げようとすると、その動作直前に逆側の内腹斜筋と腹横筋の筋活動が働くAllison 2008)。内腹斜筋と腹横筋は腹筋の中で最も深部に位置している。それに対し表層にある腹筋が外腹斜筋と腹直筋であるが、肩甲上腕関節の水平内転と伸展の最大筋力では逆側の外腹斜筋が立位時における体前屈と同じぐらい働いたTarnanen 2008)。

写真はTarnanen 2008から転用

立位において上肢の動きが重心をずらそうとする際に体幹は経験からか、二足歩行の我々ゆえにか腕の動きの前に体幹の筋活動を上げ姿勢が崩れるのを防いでいる。こうした研究報告から現場では立位あるいは片膝たちからのチョップ・リフトエクササイズが取り入れるようになった。しかしチョップ・リフトエクササイズのやり過ぎが腹斜筋の肉離れを引き起こすのではないかとATの間で逸話されている。

https://prehabexercises.com/chop-and-lift-progression/から転用

下肢の末梢感覚器の役割

立った姿勢のバランスは、目から入ってくる視覚情報や頭の傾きを司っている三半規管装置(内耳に存在)より下肢の感覚器からの情報(固有受容器/Proprioception)が重要な役割をしている。何もしていない立位でのバランスにおいて70%の感覚情報は固有受容器によるHorak 2006)。固有受容器からの情報は脊髄小脳経路でバランスを保たれながら、大脳皮質の体性感覚に伝えられる。たとえば目が開いていようがなかろうが立ってられるし、目を閉じると意外に足、脚からの感覚を察知できるものである。

タンデムで多裂筋、片足立ちで内腹斜筋

下肢の固有受容器の視点から利き腕による上肢のリズミカルな動きと4つの異なる立ち方での体幹筋の働きを比較した(Tsuruike 2018)。立ち方には利き脚のかかとと非利き脚のつま先を揃えるタンデム立ち、利き、非利き脚それぞれの片足立ちに両足立ちが含まれた。

結果、タンデム立ちにおいて多裂筋が有意に大きく働いていた。つまり多裂筋は不安定な立位時に働くことがわかった。一方、利き腕側の運動と逆側の片足立ちでは立っている側の内腹斜筋が有意に働き、それに対し利き腕側の運動と同側の片足立ちにおいて逆側つまり足を浮かしている側の外腹斜筋が有意に働いた。このことから内側腹斜筋は腕の動きに関係なく、体重をのせている足に対応しOkubo 2010; Mok 2015)、一方で外腹斜筋は逆側の腕の動きに対応しているTarnanen 2007)。投球動作やバッティング動作に応用できるのではないかと思った。

体幹エクササイズとスポーツ

フィットネスにおいてともかく体幹が強調されている。プランクやサイドプランク(肘を付いてサイドブリッジ)さらに仰向けで行うデッドバグや四つんばいでのバードドッグエクササイズなど体幹の筋活動がよく働く。

 

プランク(左)、サイドプランク(中央)、バードドッグ(右)、写真はImai 2010から転用

研究ではスポーツとの関連性を示すのはなかなか難しい。されど体幹!?

スポーツはスキルを獲得、向上して競い合う。スキルを向上していく中で必然と体幹の筋力も適応してくのだと思う。体幹があってのスキルには懐疑的で「鶏が先か、卵が先か」ではなく、体幹は各個人のスキルレベルのバランスだと思う。大切なことはコアスタビリティ(体幹)エクササイズを考えるなら連動性(キネティックリンク)の視点からではないかと思う。

キネティックリンクエクササイズ