習得した運動スキルを別の運動にも応用できるとしたら、その仕組みはなにか。たとえばアイスホッケーとゴルフです。実際プロアイスホッケー選手は引退後、ゴルファーになることがあります。その仕組みはステックを使ってパックを動かすあるいはアイアンでゴルフボールを飛ばすことが似ているからでしょうか。
身体バランス補正
運動学習の先駆者N. Bernsteinは、異なる動きが他の動きに応用できるならそれは四肢の動き(キネマティックス)ではなく、運動中の無意識に制御される身体バランス補正(Background correction)であると説明します。身体バランス補正は、神経科学からだと錐体外路のことです。錐体外路とは脳幹から脊髄に下行し、随意運動を無意識に補助する機能のことです。さらに四肢を動かす際に姿勢を制御し、逆に外的な力で姿勢を崩すことでもあるなら、反射的にそれを抑えてくれます。一輪車とアイススケートは全く異なる下肢の動作ですが、運動中どちらともよく似た身体バランス補正をしています。どちらの運動中も重心の位置を常に補正しています。一輪車に乗れる人はアイススケートをしたことがなくても早く上手に慣れます。その逆も言えます。
一般的なトレーニングは筋力やパワー向上など個人の目的に沿って行われます。これらは意識的に大脳を活性させて行う随意運動になります。一方で種目特異性に沿ったトレーニングは意識的に四肢を動かしながら、無意識に身体バランス補正が伴います。
力の伝達の仕組み
投球やテニスなどオーバーヘッド競技は、地面反力の力、エネルギーを下肢、体幹の連鎖運動から利き腕側に伝達することになります。鍛錬者は伝達それぞれのタイミングが優れていて、効率よく伝達できます。種目特異性のトレーニングとは下肢、上肢の力の発揮に合わせた無意識に制御される身体バランス補正とも言えます。
最終位の記憶
非鍛錬者(初心者)は上肢、下肢の動き一つ一つ分習法で習得することになり、それぞれを上手く伝達できるまでにいくつもの過程があります。また動きの最終位のところを覚えてもらうためにいろいろな方法で固有受容器を刺激するような練習になります。最終位は記憶しやすいですが、一連の流れの動きを記憶することは容易でないからです。固有受容器は最終位の記憶に役立つだけでなく、その情報は小脳から脳幹を活性し、身体バランス補正の事前記憶にも役に立ちます。
まとめ
身体バランス補正を意識付けたトレーニングもあります。意識付けと言って仰向けやプランク姿勢で体幹トレーニングを行うのでなく、あくまでも立位で行うことになり、そこに工夫が必要になります。たとえばチューブを用いるなどです。スポーツ動作に関連したいろいろな動きパターンのトレーニングは、身体バランス補正をいかに念頭において鍛錬するかであり、それが種目特異性のトレーニングにつながると考えます。
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