軽い負荷のフリーモーションエクササイズで試合翌日の肩甲骨周辺筋群の回復を試みる。
キネティックリンク
キネティックリンクは上肢の連動のことで、体幹からの力、エネルギーが手先まで順次伝わることである。腕や前腕のひねりも生み、まさしく投球やテニスサーブ動作がそうである。
Kibler 2008
Kiblerらケンタッキー大学レキシントン・クリニックスポーツ医学センターグループがRobberyとLawnmowerエクササイズを紹介してから臨床で肩のリハビリトレーニングメニューに取り入れらるようになった。
写真はKibler 2008 が提唱したRobbery(左2つ)とLawnmowerエクササイズ(右2つ)
Robberyエクササイズ、Lawnmowerエクササイズはキネティックチェーンエクササイズ、つまり一連動作のフリーモーションである。本人の感覚運動で肘の位置を確認しながら行うことになる。
僧帽筋下部線維
KiblerらはRobberyエクササイズもLawnmowerエクササイズも肩甲骨の上方回旋・下方回旋が「肩甲面」であり、運動中には肩甲骨の内旋・外旋、前傾・後傾もある。これら一連の動きの重要性を強調している。(肩甲面とは肋骨のカーブに沿って肩甲骨が水平面から前方に30°-40°傾いていることである。)
一方、筋電図でデータを取ってみるとRobberyエクササイズで腕を90°まで上げて中程度(最大筋力値の50%以下)で、Lawnmowerになると最大筋力値の30%以下であった(Tsuruike 2015)。さらにRobberyエクササイズの研究を続けると肘の高さつまり腕を外転させばさせるほど僧帽筋下部線維の筋活動は上がる一方で、僧帽筋上部線維、三角筋の筋活動も活性する。そこでRobberyエクササイズで腕を90°まで外転するなら下肢の伸展運動を入れるべきだと結論付けた(Nakamura 2016)。
図は、毎秒のメトロノームに合わせたRobberyエクササイズを電子センサーで関節角度計(Biometrics Ltd)を肘に付け、運動開始から1秒間の筋電図値(2つの縦破線間)を示した典型的な波形である。SAは前鋸筋、LTは僧帽筋下部線維、PDは三角筋後部線維、ISは棘下筋。一番下の波形が肘の角度。被験者は最初のメトロノーム音で腕を上げ、次の音で腕を降ろす(Tsuruike 2015)。
EMGの研究
データ収集から見えてきたのは、RobberyエクササイズもLawnmowerエクササイズも僧帽筋下部線維をさほど活性させない。ダンベルの重さを上げたり、腕を肩外転90°まで上げると、三角筋、僧帽筋上部線維が過剰に働く。下肢の伸展運動を入れると逆に筋活動が低下し過ぎるなど、データだけに目を向けるていると運動の意図を見失ってしまう。
図は、僧帽筋下部線維の筋電図値(MVIC%)。運動強度は体重の3%、5%、7%のダンベルで(体重70 kgだと2 kg、3.5 kg、5 kgのダンベル)Quadruped shoulder flexion:四つんばいになって腕を前へ上げる(肩関節屈曲)、Robbery、Lawnmowerエクササイズを行った。また等尺性筋収縮でExternal rotation:立位で肩関節屈曲30°、肩甲骨内旋30°ロードセルを30°に傾けたレバーアームでの肩外旋運動 Abduction:座って肩外転90°での外転運動を行った。運動負荷は最大筋出力(MVIC)の20%、30%、40% だった(Tsuruike 2015)。
3つの関節と7つの自由度
上肢のフリーモーションには、腰に差してある刀を抜く動作(PNFのD2パターン)やシートベルトを引っ張る動作(D1パターン)など、肩関節、肘関節、手関節が順次に動かす動作がある。上肢のフリーモーションとは順次に動く7つの自由度のことで:肩関節屈曲・伸展、外旋・内旋、水平内転・水平外転、肘屈曲・伸展、手関節屈曲・伸展に撓屈・尺屈が含まれる。肘が曲がっているなら前腕の回内・回外も起こる。これこそがRobberyエクササイズとLawnmowerエクササイズの目的である。
肩や肘に障害また内視鏡で縫合手術を受けたあと、関連の筋肉は「引っかかり」を生む。そん時は体側近くのRobberyエクササイズあるいはLawnmowerエクササイズを行う。7つの自由度を含む複雑な運動は、痛みや違和感で動かしにくい筋、筋内の引っかかりを周りの筋群が代償として運動し、運動後は「痛み抑制」(Pain inhibition)を高めることになる。痛み抑制の増加は柔軟性を向上につながる。
試合翌日のアクティブ回復
RobberyエクササイズもLawnmowerエクササイズもダンベルだけでなくチューブやメディシンボールでも応用できる。Robbery、Lawnmowerエクササイズは投球や試合翌日に行うことで肩甲骨周辺筋群の回復が期待できるだろう。試合後のエクササイズなら2 kg 前後のリストカフでしっかり肘の開始と最終位置を確認しながら15回2-3セット。片足立ちでさらに全身の緊張から腕の感覚運動を確認。
メディシンボールも有効である。