小円筋は肩甲上腕関節の回旋筋腱板の一つであり、外旋筋である。肩甲上腕関節の外旋筋には棘下筋もある。小円筋は棘下筋の45%かそれ以下の外旋力であるが(Kikukawa 2014; Walch 1998)、肩甲上腕関節が外転すればするほど、よく働く。一方で棘下筋は肩甲上腕関節外転時にその出力が低下する(Otis 1994)。
図はKurokawa (2014) らの研究でPET(陽電子放出断層撮影)を用いて外転位0°(図上A)と90°(図上B)の外旋運動時の棘下筋(図下A)と小円筋(図下B)の代謝活動の働きを比較している。棘下筋は内転位でよく働き、小円筋は外転位90°で働いているのが分かる。
投球動作における棘下筋と小円筋の働きの違い
筋電図でプロ投手の投球動作における二つの外旋筋の働きが比較されている。加速期からボールリリース直後の減速期では、小円筋は最大筋力の54%から84%働いている。それに対して棘下筋は最大筋力の31%から37%働いているに過ぎない(Digiovine 1992)。
図はDigiovine 1992から転用。
棘下筋委縮でも投球は可能
プロ投手の4%は利き腕(投球)側の棘下筋が委縮していた(Cummins 2004)。女子プロテニス選手の半数以上が何らかの原因で棘下筋の委縮が見られていた(Young 2015)。
上の写真はプロテニスプレーヤー。利き腕側の棘下筋委縮が分かる(右)。Ellenbecker. Sport Therapy for the Shoulderから転用。
水平外転運動の小円筋
前回のブログで棘下筋の筋活動は外旋運動に比べ水平外転運動で有意に低下したことを示した。つまり肘を伸ばせば棘下筋の活動が抑えられる。これは投球動作で加速期において肘が伸びたことで棘下筋の筋活動が低下していることに一致する。一方で小円筋の筋活動は高いままである。
小円筋と三角筋後部線維
臨床現場においても、投手が投球後に肩甲骨外側縁上部1/3あたりに張りをよく訴える。小円筋の付着部である。しかしほとんどの投手が肩甲骨後面に張りを訴えることはない。そこで小円筋の働きを調べてみたら三角筋後部線維と共同に肩甲上腕関節水平外転に働くことが分かった(Tsuruike 2021)。
上の写真は大学野球選手が四つんばいになり、肩甲上腕関節外転位90°で矢状面(左)、肩甲面(中央)、前額面(右)において水平外転運動を行っていて、肩甲骨周辺筋の働きを比較した(Tsuruike 2021)。
棘下筋 vs. 小円筋
解剖学では棘下筋は上腕骨大結節1時から3時に停止している。小円筋は3時から5時に停止している(Curtis 2006; Hamada 2016)。生理学では棘下筋は羽状筋であり、小円筋は紡錘状筋である(Bacle 2017)。つまり棘下筋は速筋線維あるいは疲れやすいに対し小円筋は遅筋線維あるいは持久系と言える。
写真から肩甲上腕関節外旋を伴う水平外転運動時の小円筋(TMi)と棘下筋(IS)の筋収縮が見える。TMaは大円筋、PDは三角筋後部線維、Latissimus Dorsiは広背筋、Long Head of Triceps Brachiiは上腕三頭筋長頭である(Tsuruike 2021)。
肩関節の症状時は棘下筋、投球後の張りは小円筋
棘下筋は回旋筋腱板の中で大きく、肩甲上腕関節の安定に重要な役割をしている。術後や痛みがあるなど症状がある時は肩甲上腕関節内転位において外旋運動を行い、筋スパズム(痙縮)を和らげ、肩関節の柔軟性を向上すべきである。一方で投球障害肩予防トレーニングは異なる。如何にして小円筋をトレーニングし、投球後の筋スパズム、張りを和らげるかであるだろう。