運動スキル習得
人はボールを投げたり、野球ならバッドで投げられたボール打ち返したり、テニスのサーブさらに剣道や弓道など運動のスキル習得で競い合う。運動スキルとは目的のために各関節を動かす随意運動のことであり、パフォーマンスのことである。
スキル習得には段階があり、始めに頭で動かし方を理解し、運動達成までの一連の流れを学ぶ。次に一連の流れを実際に行い、頭で理解していたこととの違いを知る。習得したいスキルにもよるが簡単にまねができる動きもあれば、すぐにできないスキルもある。
タイミングがすべて
指先や左右の手を使う楽器など細かいスキルは分習法で単純な動きからの開始になる。一方で野球の打撃やテニスやバレーボールのサーブはバッドやラケットあるいは手にボールを当てることはできても、強く前に飛ばすとなると手先だけでなく下半身からの連鎖運動が必要になる。連鎖運動で大切なことはそれぞれのタイミングである。関節から関節、体幹から上肢近位部、さらにバッドあるいはラケットをもつ手までの一連の流れのタイミングである。しかも大腿部やでん部のような大きな筋肉から前腕の筋肉まで大きさも違えば、運動制御の仕組みも違ってくる。たとえば一つの運動ニューロンで支配している筋線維の量が異なる。
随意運動は頭の中で指令する筋収縮のことであるが、それだけではとても打撃やテニスやバレーボールのサーブはできない。体幹部や付け根の筋肉は一定に緊張しているのでなく必要時にタイミングよくしっかり収縮できるかである。
分習法
運動スキルとは各体節(筋肉を含む関節)のタイミングの動きを習得することである。投手の投球動作の習得となればワインドアップ、コッキング、加速、ボールリリース、減速、フォロースルーと言って一連の動作を期分けした分習法があるほど、各期の要素をしっかり習得しなければ習慣性障害で肩や肘を痛めてしまう。
投手は、ボールの大きさや重さ、マウンドの高さからホームプレートまでの距離すべて同じ環境下でスキル習得することになる。しかし競技するとなれば話は変わってくる。言うまでもなくホームプレートの幅内でバッターの膝から胸までの間にボール投げなければならない。投手は球速の緩急、変化球を交えた投球を行うことになる。これもスキルでありパフォーマンスである。
勘
一方で、打者が投げられたボールに当てるには少なくもホームプレートから9フィート(2.74 m)までにバッドを振り始める必要がある。プロ選手は5.5フィート(1.68 m)までボールを見極めて振ることができる。どちらせにボールが当たるのを見て振るのでなく、あくまでも勘で振っている。ゆえにプレート近くの変化球に打者は対応できず、空振りかチップするのが関の山である。
知覚と予測
スキル習得の段階で自身の感覚器(または固有受容器)からの知覚とコミュニケーションができれば予測も立てることができる。さらに計測と自身のパフォーマンスを比較することもできる。計測にはたとえば投手なら球速や回転数、回転軸などの数値のことである。
計測器と運動後の知覚
投球動作中、身体のバランスからボールリリースにいたるまでリズム運動になる。ボールリリースでは肩内旋角速度が毎秒8000°に及びとても腕の位置を随意運動で整えることはできない。つまり投球中は神経回路で調整は不可能である。しかし感覚器から記憶として呼び起こすことは可能であり、計測器からのデータと運動後の知覚の記憶を比較することができる。
パフォーマンスの特徴
スキル習得とは半永久的に身につけたことであるが、試合などで競い合うパフォーマンスは一回の表現である。パフォーマンスの特徴には6つある。一つは「向上」である。パフォーマンス向上にはすぐに学ぶスキルもあればある程度の反復練習ができるまで時間のかかるスキルもある。また向上の途中にあるのがスランプである。順調にスキル向上できなく、ある一定のところで向上の停滞に陥る。スランプ打開には基礎に戻ることや熟練者からのアドバイスなどさまざまな方法はあるが、何よりも自身の競技経験が必要である。練習と試合はまったく別、ゆえんである。
一貫性
次に、「一貫性」である。MLB(大リーグ)選手のインタビューで ”consistency” と言うことを聞く。投手にしても打者にしても自身のスキル、一連の動きを一貫する大切さを強調する。インタビューを聞いていて身に付けたタイミングを貫くことがいかに難しいか、しかしできたことがパフォーマンスにつながったと話している。パフォーマンスの特徴に一貫性がある。
安定性
3つ目は「安定性」である。安定とはチームスポーツならシーズン制で競い合う。つまり試合日程は事前に決まっている。シーズン中の体調管理を専門家とともに行い万全を期して準備しているのだが、やはり疲労はある。あるいは屋外スポーツなら天候に影響を受けることもある。さらに海外では移動時間だけでなく時差も発生する。選手は内的、外的なストレスの中で安定したパフォーマンスを発揮できるかである。
粘り強さ
4つ目は「粘り強さ」である。年齢的、体力的にパフォーマンスピークあるいは自身の能力などで限界をつくるのでなく、新しい目標も見つけ目標達成のためのスキルを身につけていくことがパフォーマンスの特徴でもある。
適応性
5つ目は「適応性」である。おかれた環境下で最善を尽くすことである。高校から大学あるいは日本リーグさらにプロスポーツと言ったレベルが異なる環境下で習得したスキルを使っているはずが環境の違いから戸惑うこともある。ましてや外国のチームに移籍したとなると言葉から文化的背景の違いもある。習得したスキルを駆使するにはまず環境に適応しなければならない。また新しい仲間との人間関係も築かなければならない。さらに新しい対戦相手にはこれまでにない戦術、戦略を含め再考する必要もある。最善のパフォーマンス発揮には適応がある。
最小限の注意
最後に「最小限の注意」である。動作スキルのタイミングも注意することなく容易に行うことができることである。このことで他のことが見え、予測の幅が大きくなる。究極のパフォーマンスとは最小限の注意で行うことである。
Capacityからcapability
選手のスキルは経験から得るキャパシティ(capacity)の大きさに関係する。キャパシティとは容量のことであるが、その大きさを広げることができかである。良く山登りに例えられ「今置かれているところは6合目か7合目」であるなどの表現を聞く。上に登れば見える視野も変わる。キャパシティとは視野を広げることであり、そのことで潜在能力を高めることができる。潜在能力をポテンシャルとも言うが、この場合はケーパビリティ(capability)のことである。広げた「視野」を使える潜在性のことである。