肘の外反ストレステスト

肘尺側側副靭帯(UCL)損傷を調べるのに外反ストレステストがあり、手のひらを上に向けた回外位で行うのと手のひらを下に向けた回内位で行う方法がある。

前腕を回外位で外反ストレステストを行う場合は、肩甲上腕(肩)関節が最大に外旋していることが大切である。しかし靭帯の弛緩を見るのに肘関節の屈曲位30°、50°、70°で違いはない。理由は橈骨頭と上腕骨遠位端(小頭)の関節および蝶番の腕尺関節がともかく外反に抵抗しているためである(Hariri 2010)。

腕尺関節の隙間(裂隙)幅は安静時で3 mm程度である。たとえば肘を痛めていない40名のプロ投手の利き腕側の最大外反ストレスによる裂隙開大は安静時から比べ1.2 ± 1.0 mmで非利き腕側が0.9 ± 0.6 mmであった(Ellenbecker 1998)。つまり膝の外反ストレステストと異なり、肘外反ストレステストは安静と開大時とで靭帯の弛緩を比較するのは難しい。

写真は肘屈曲位25°、回外位、肩関節外転位65°に最大外旋位において外反装置で肘内側裂隙の開大を測っている(Ellenbecker 1998)。

投球肘で内側に痛みをもつ若年者74名[(平均年齢: 18.7)うち62名は投手]に肘関節20–30 度に外反ストレスを与えレントゲン撮影して調べた結果(下の写真)、UCL損傷側(投球側)は安静時に3.1 ± 0.5 mm,外反ストレスを与えた時に4.6 ± 0.8 mmの関節裂隙が開大した。それに対し非損傷側(非投球側)では,外反ストレスを与えた時に4.2 ± 0.7 mmであり、外反ストレス有無における関節裂隙の開大差が0.4 ± 0.6 mmであった。この結果、損傷有無で裂隙の安静時には有意差はなく、開大差においては有意差が見られた。しかし被験者の22%は非損傷側の方が開大しているなど、肘に外反ストレスを用いたレントゲン撮影は重症度に関係なく有効でないと結論付けられているMolenaars 2020)。トップレベルの投手は投球側の肘内側の関節包、UCL靭帯を肥大させていてChalmers 2021、外反による開大に抵抗している。

図はMolenaars 2020から転用

写真はMolenaars 2020から転用

前腕回内での外反ストレステスト

肘UCLは前腕回内位で最大に弛緩する。理由は腕橈関節(橈骨頭と小頭)の抵抗を減らすためである。しかし回内での外反ストレステストの際、腕の外転運動が起きていないかに注意する必要があり、なによりも前腕の筋群が外反に抵抗することからやはりUCL靭帯の弛緩を調べるのは難しいChalmers 2017)。

Miking Maneuver test

肘尺側側副靭帯(UCL)損傷を調べるのにMiking Maneuver testがある。肩関節外転,外旋位,肘屈曲90°,前腕回外位において検者は患者の親指を握り,後方に引っ張ることで外反ストレスを生じさせ、UCL前斜走靭帯の後方線維にストレスを与えるErickson 2017)。

 

写真と図はErickson 2017から転用。肘屈曲位90°より深い角度ではUCL前斜走靭帯の後方線維にストレスを与えることができる。図に赤点線を加えた。

Moving valgus stress test

Moving valgus stress testは肩外転90度位,肘完全屈曲位で検者は手を患者の肘後部に当て外反力をつくる.次に患者の手のひらと自らの手のひらを合わせ ,患者の肘と手において外反力を与えながら肘を伸展させる。肘屈曲が浅くなればUCL前斜走靭帯の前方線維にストレスを与える(下の写真)。

写真と図はErickson 2017から転用

肘関節屈曲90°での痛み

Moving valgus stressテストで大切なことはどの肘屈曲角度で痛み(症状)が生じているかである。つまり尺骨側かあるいは上腕骨内側上顆側かである。触診で痛みの箇所を調べ、尺骨側に痛みがあるならば投手にとって保存治療の選択は厳しいものになるだろう。特に肘関節90°あるいはより深い屈曲位で尺骨側の靭帯遠位部に痛みがある場合は、前斜走靭帯の後方線維が損傷していることになるからである。一方で上腕骨内側上顆側の痛みなら保存治療は可能である(Frangiamore 2017)。