投球・サーブ障害肩予防トレーニング

カテゴリー: 体幹エクササイズ

運動中の身体バランス補正

習得した運動スキルを別の運動にも応用できるとしたら、その仕組みはなにか。たとえばアイスホッケーとゴルフです。実際プロアイスホッケー選手は引退後、ゴルファーになることがあります。その仕組みはステックを使ってパックを動かすあるいはアイアンでゴルフボールを飛ばすことが似ているからでしょうか。

身体バランス補正

 運動学習の先駆者N. Bernsteinは、異なる動きが他の動きに応用できるならそれは四肢の動き(キネマティックス)ではなく、運動中の無意識に制御される身体バランス補正(Background correction)であると説明します。身体バランス補正は、神経科学からだと錐体外路のことです。錐体外路とは脳幹から脊髄に下行し、随意運動を無意識に補助する機能のことです。さらに四肢を動かす際に姿勢を制御し、逆に外的な力で姿勢を崩すことでもあるなら、反射的にそれを抑えてくれます。一輪車とアイススケートは全く異なる下肢の動作ですが、運動中どちらともよく似た身体バランス補正をしています。どちらの運動中も重心の位置を常に補正しています。一輪車に乗れる人はアイススケートをしたことがなくても早く上手に慣れます。その逆も言えます。
一般的なトレーニングは筋力やパワー向上など個人の目的に沿って行われます。これらは意識的に大脳を活性させて行う随意運動になります。一方で種目特異性に沿ったトレーニングは意識的に四肢を動かしながら、無意識に身体バランス補正が伴います。

力の伝達の仕組み

 投球やテニスなどオーバーヘッド競技は、地面反力の力、エネルギーを下肢、体幹の連鎖運動から利き腕側に伝達することになります。鍛錬者は伝達それぞれのタイミングが優れていて、効率よく伝達できます。種目特異性のトレーニングとは下肢、上肢の力の発揮に合わせた無意識に制御される身体バランス補正とも言えます。

最終位の記憶

 非鍛錬者(初心者)は上肢、下肢の動き一つ一つ分習法で習得することになり、それぞれを上手く伝達できるまでにいくつもの過程があります。また動きの最終位のところを覚えてもらうためにいろいろな方法で固有受容器を刺激するような練習になります。最終位は記憶しやすいですが、一連の流れの動きを記憶することは容易でないからです。固有受容器は最終位の記憶に役立つだけでなく、その情報は小脳から脳幹を活性し、身体バランス補正の事前記憶にも役に立ちます。

まとめ

 身体バランス補正を意識付けたトレーニングもあります。意識付けと言って仰向けやプランク姿勢で体幹トレーニングを行うのでなく、あくまでも立位で行うことになり、そこに工夫が必要になります。たとえばチューブを用いるなどです。スポーツ動作に関連したいろいろな動きパターンのトレーニングは、身体バランス補正をいかに念頭において鍛錬するかであり、それが種目特異性のトレーニングにつながると考えます。

運動中の脳幹制御について

はじめに

私たち二足歩行のヒトは、上肢を自由に使うことができるようになり、その最大の特徴には繊細に握る、つまむ動作ができるようになった。このことで指先を使ったさまざまなスキルを習得できるようになり、ものを作り、さらにものを使って競う合うようになった。野球やテニスなど球技スポーツ、投てき競技のことである。

3つの運動パターン

私たちのパフォーマンスは神経学的に3つの運動パターンに分類でき、一つは随意運動、次に不随意運動、そしてリズムである。随意運動は意識的に筋肉を動かくことで、これは大脳皮質からの指令で行われている。スキル習得過程において練習の経験だけでなく、一つ一つの課題解決に向けて大脳を活性させて繰り広げる筋収縮のことである。

不随意運動

パフォーマンスにおける不随意運動は、随意運動の補助のことで特に姿勢制御のことである。立って上肢を使うことで下半身から体幹の緊張を要する。例えば投球動作は下肢を使った地面反力を上手く体幹から肩、腕へ力、エネルギーを伝達させていくことになるが、すべて随意運動でできているわけでない。複雑かつスピードのある動作は大脳以外に小脳や脳幹における身体のバランスの調整、下肢から上肢の動作の調節が行われている。

リズム運動

リズムは単純なところだと歩行のことである。平坦なところでのスキップもその類になる。複雑なパフォーマンスになればダンスやウォームアップのフットワークドリルもリズムである。リズムは事前にすべての動作が計画され記憶された動きのことである。歩行やランニングは脳幹にある中脳歩行誘発野(mesencephalic locomotor region)で制御され、脊髄レベルで中枢パターン発生器(central pattern generator)が働き、スムーズな繰り返し振子運動が行われている。今回は、上肢の特徴とパフォーマンスの視点から不随意運動(脳幹制御)の特徴を掘り下げてみたい。

下行腹側内側路

立っている時、両側の体幹の筋肉を緊張させている。体幹の筋肉を活性させる神経回路は脊髄の腹側内側に下行し、そこから交叉して逆側の運動ニューロンに接続する。脊髄の腹側内側には脳幹からも下行している。下行とは神経回路の遠心性のことで、高位中枢神経から脊髄レベルに指令が伝達されることである。脳幹は脊髄の上に位置し、下行路だけでなく末梢からの情報を伝達する上行路も走行していている。さらに脳幹は運動に不可欠な小脳への伝達も担っている。脳幹から発する下行には網様体脊髄路、前庭脊髄路があり、伸展筋を収縮させる。伸展筋とは抗重力筋のことで、つまり重力に対して立つために必要な筋肉のことである。たとえば下腿三頭筋、大腿四頭筋、殿筋、脊柱起立筋、腹筋である。

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下行腹側内側路で左側の青のラインは大脳皮質(cerebral cortex)から脊髄の腹側内側に下行し、体幹筋の運動ニューロンに接続している。右側の緑のラインは脳幹(brainstem)から下行し同じく体幹筋の運動ニューロンに接続している。体幹筋は随意で意識的に制御も可能だが、姿勢制御だと左右両方が同時に収縮している。Lemon 2008

体幹の特徴

体幹の筋肉を収縮させる運動ニューロンは脊髄灰白質の腹側内側に位置している。灰白質とは神経細胞が存在しているところである。随意運動つまり大脳皮質の指令なら片側の筋肉を収縮させることができるが、指や手などのように体幹の筋肉を繊細に制御ができなく、むしろ周辺の筋肉も同時に働かせる。

うつ伏せで代償運動を最小限

肩甲骨を安定させる運動に立った姿勢でベッドの端を伸ばした腕に手で押しながら肩甲骨を内側に寄せる「low-rowエクササイズ」がある(下の写真)。目的は僧帽筋下部を活性させようとすることであるが、立位で行うことで脊柱起立筋や殿筋さらに肩甲骨を背骨の方に寄せるため胸を開こうとすることから股関節運動も働き、本来の目的の僧帽筋下部の活性が他の筋肉で補われる。立った姿勢で行うとどうしても代償運動が発生する。

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low-rowエクササイズ:体幹、腕の伸展、肩甲骨内転運動 Kibler 2006

代償運動を最小限にするにはうつ伏せで行うことになる。リストカフ(重錘バンド)を手首に付け、ベッドの端に腕を垂らし、肩から腕を後ろに引き、体側を超えたところから肩を外旋する(下の写真)。

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腹臥位でLow-rowエクササイズ(肩伸展運動)

体幹の貢献度

そもそも体幹筋は立っていて姿勢を崩した時に働くのであって、立っている時の腹筋は体幹の捻じれや体前屈に働かない。Kiblerは、体幹の筋活動について日常生活なら最大筋力の5%、それなりの激しい運動でも最大筋力の10%程度であると説明する。

そこでいくつかの姿勢で体幹筋の働きを調べてみた。1)片足ブリッジ、2)バードドック(四つんばいで肘伸展で腕と逆側の膝伸展で脚を持ち上げる、3)前脚と後ろ脚を一列にした片膝立ち(FMSのNarrow half kneeling)姿勢で内腹斜筋の筋活動を測定したら10%弱から20%以下であった。

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左から片足ブリッジ、バードドック、狭めた片膝立ち
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グラフは片足ブリッジ(SLB)、バードドック(BDP)、狭めた片膝立ち(NHK)時の内腹斜筋筋活動量。平均活動は最大筋力の9~17%程度であった(Tsuruike 2020)。

片足立ちで体幹筋の評価

Kiblerは体幹筋の評価を片足立ちで後ろに反り返り戻れる壁までの最大の距離を測る。さらに壁の前に後ろ向きで片足立ちになり、体を後ろ捻じり、捻じった側の肩が触れる最大の距離を測る。最後に壁の横に片足立ち体の側屈で壁に肩が触れる最大の距離を測ることを推奨している。

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体幹筋の評価として片足立ちから反り返り、捻じり、側屈を行い、壁から荷重の足までの距離を測る(Kibler 2006)。

プランク姿勢

プランク姿勢は体幹トレーニングの代名詞とも思われているところがある。フロアーで行うプランク運動は姿勢の変化がないので脳幹からの補助はなく、体幹筋、大腿四頭筋、肩甲骨周辺筋の疲労は脊髄の後側から上行し、大脳皮質にその情報は伝達され、大脳皮質の活性を高めるだけのことになる。
サイドプランク姿勢で体幹の揺れがあるなら、その情報は脊髄の前側から小脳に上行し、小脳が脳幹を経て姿勢の揺れを抑えさせながら、大脳皮質の体幹筋の活動を調節することになる。さらに吊りバンドに両足を引っかけたり、バランスボールに足と肘を載せるなら脳幹の関与もあるが、大脳皮質で最大に近い筋活動を引き起こす。いわゆる意識的に気張る動作になる。

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プランク姿勢での外腹斜筋(左): 37-53% MVIC (Calayayu 2017Ekstrom 2007Escamilla 2016Imai 2010)吊りバンドに両足を引っかけたプランク姿勢での外腹斜筋(右): 59%-70% MVIC(Cugliari 2017Mok 2014
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サイドプランク姿勢での外腹斜筋(左): 62-82% MVIC(Calayayu 2017Ekstrom 2007Escamilla 2016Imai 2010Youdas 2014)。バランスボールに足と肘を載せたサイドプランク姿勢での外腹斜筋(右): 99% MVIC (Imai 2010

固有受容器

立った姿勢のバランスは下肢の固有受容器の働きに依存している。固有受容器とは空間における上肢、下肢それぞれの位置を伝える末梢感覚器のことである。たとえば筋の長さや収縮速度を監視している「筋紡錘」や筋の張力を監視している「ゴルジ腱器官」のことである。末梢の情報は大脳皮質の体性感覚野で知覚するが、普通に立っているだけなら随意運動での調整に至らず、小脳や脳幹で調整できる。つまり大脳皮質の指令は最小限で済む。

FMSのスクワット

肘を伸ばし両手を上げた姿勢で大腿部がフロアーに対し平行になるまでスクワットをする。その際に上げた腕が前に行かないように肩の位置を維持するFMS(functional movement system)の動きのパターンがある。スクワットは膝が割れたり、内側に入らないことが前提であるため、スクワットの際に大腿部、殿部に意識がいき、肩の位置の制御は簡単でない。しかしこの肩の位置を維持するためにチューブで外に引っ張り、広背筋、大円筋、さらに大胸筋の筋活動を高め、大脳皮質の下行路を活性させる。このことで脳幹からの補助も活性し、比較的無意識に両肩の位置が維持ができる(下の写真)。

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チューブを外側で引っ張ることで広背筋、大円筋、大胸筋が活性した状態でスクワット。腕を伸ばしてスクワットすると腕が顔の前にいっていたのが、肩の内転運動で腕が頭の上に維持できる

FMSロータリースタビリティ

さらに四つんばいの姿勢で同側の肩と股関節持ち上げるロータリースタビリティと呼ばれるFMSの動きのパターンがある。同側の腕と脚を上に持ち上げることは容易でなく、動作中に体幹を持ち上げ続けることができるのか困惑するところである。そこで動作の前に肘と膝を寄せ、その際の体幹のバランスに必要な筋群を最大に収縮させる。FMSのスクワットと同様にまずは大脳皮質の下行路を活性させる。そのことで姿勢補助の脳幹も活性でき、四つんばいであるにもかかわらず体幹の抗重力筋が働き、同側の腕と脚を持ち上げることが予想以上に可能である。

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FMSのロータリースタビリティで同側の腕、脚を持ち上げる前に肘と膝を付け合わせ、体幹の位置ができるだけ左右均等になるように確認しながら腹筋を中心に最大収縮を試みる(大脳皮質の下行路を活性)。

力の伝達作用の体幹

体幹は姿勢維持に働くことが主な役割である。一方で体幹は、投球動作の下肢で作り出す地面反力の力とエネルギーを上肢に伝達する働きにもなる。この伝達作用は運動目的の機能動作であり、随意運動で行うものでなく、いかにして脳幹からの制御で体幹筋群を調整できるかである。

片足立ちにおける脳幹の制御の違い

実験で被験者に利き腕側の片手に手作りの器具を振り回してもらった。運動は毎分90回のリズムで振り回してもらい体幹から腕に向かって遠心性の加速が生じている。さらに運動中に利き腕側と同側の片足立ち、逆側の片足立ちを行ってもらい、その間の体幹筋群の働きを調べた。肩の負担を考慮に入れ肘を曲げての振り回しであるが、利き腕側と同側の片足立ちで、その逆の外腹斜筋の活動が有意に高まった。一方で非利き腕側つまり逆側の片足立ちだとその立っている側の内腹斜筋の活動が有意に高まった。片足立ちの上肢運動における外腹斜筋や内腹斜筋の変化は脳幹からの制御の違いだと考える。

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左の写真は上下のキャストが回り、被験者に毎分90回のメトロノームに合わせて利き腕で振り回してもらった。遠心力が働き、体幹筋の緊張が見られた。特に利き腕側の逆側で片足立ちすると荷重側の内腹斜筋が有意に高まりで(左のグラフ)、利き腕側と同側で片足立ちすると逆側の外腹斜筋が有意に高まった(右のグラフ)(Tsuruike 2018)。

全身リズム運動の脳幹の働き

別の実験で被験者に左右回転する丸い板の上で下半身をツイストしてもらった。運動は最大毎分150回のリズムで左右それぞれ45°(合計90°)の回転を連続20秒間行ってもらった。運動中の肢位には1)膝、股関節それぞれ30°に屈曲した姿勢、2)膝、股関節伸展した姿勢、3)さらに膝、股関節30°屈曲から伸展してもらうダイナミック姿勢であった。結果は、膝、股関節伸展した姿勢で内腹斜筋が最大の60%以上活動したことであった。つまり同じツイスト運動でも下肢の動作を最小限することで体幹筋活動を高めた。全身リズム運動は大脳皮質による大腿部緊張から脳幹(中脳歩行誘発野)に移るなら、体幹の緊張も脳幹による制御が大きくなる。

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左の写真は円盤上をツイスト。右のグラフは被験者に膝、股関節を伸展(SL)でツイスト、膝、股関節を30°屈曲(AP)でツイスト、膝、股関節30°屈曲から伸展しながらツイスト。ツイストは毎分150回(BPM)のメトロノームに合わせてツイスト。結果、下肢伸展でツイストすることで内腹斜筋が有意に高まった(Tsuruike 2020

体幹トレーニングの考え方

スポーツにおいて体幹は、下肢で作りだす地面反力を上肢に伝達する投球動作、サッカーのように上体の安定から生まれるドリブルやキック力、さらにバレーボールの空中でアタックするための安定など極めて重要である。

スポーツによる習慣性動作は時に慢性腰痛を引きを起こす。腰痛による周辺の筋スパズム(拘縮)を軽減するためにアブドミナルクランチ、さらに仰向けでデッドバグや四つんばいのバードドック運動がある。まずは筋スパズムを和らげ腰部の柔軟性を高めることで慢性障害予防することになる。

スポーツに参加する中学生、高校生は成人選手に比べ体幹の使い方がうまくなく、しばしば膝関節の靭帯損傷などを引き起こす。特に思春期女子選手には運動中の姿勢の意識付けを教える必要がある

しかしスポーツに必要な体幹の鍛え方は、プランク姿勢など大脳皮質からの随意運動で鍛えるのでなく、上肢、下肢の運動の中で鍛えることで運動中に必要な脳幹による制御が高まるのではないか。ケーブルマシンを用いたチョップ・リフトエクササイズも有効であるが、同じ方向の運動、同じ筋肉の働きにになりがちである。本来の脳幹の制御は四肢の補助であり、予期せぬ姿勢制御である。トレーニングによる体幹筋の意識付け(随意運動)は本来の予期せぬ制御と異なり、「逸話的になるが」腹斜筋の損傷を促すことになるかもなしれない。一方でメディシンボールを用いたトレーニングはフリーモーションであるため体幹筋の意識付けでなくあくまでも上肢の補助である。

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メディシンボールで両手サイドスロー

ポッドキャストでも下行路[皮質脊髄路(錐体路)、錐体外路]と運動について話しています ⇒ 運動中の脳幹の働き

腰痛予防と内腹斜筋

腰痛の原因に内腹斜筋の不均等な筋活動が指摘されている。内腹斜筋は胸腰筋膜を介して腰椎を安定させている。たとえば思春期後期のサッカー選手の腰痛は内腹斜筋の左右不均等があるLinek 2018)。また腰多裂筋も直立位において腰椎を安定させている(Hides 2016)。このことから腰痛は腰多裂筋の萎縮にも関係しているGoubert 2017)。

図はOatis 2004から転用。Internal Oblique:内腹斜筋。

図はOatis 2004から転用。Multifidus:(腰)多裂筋。股関節屈曲筋である腸腰筋に対しての拮抗筋。

上肢の運動と立位の研究から内腹斜筋は片足の荷重側において活性し、腰多裂筋はタンデム立ちで活性する(コアスタビリティエクササイズ)。投球やサッカーボールを蹴るなどの全身スキル運動において体幹の筋群は下肢から上肢への連動に不可欠であるKibler 2006)。

体幹筋の活性は最大筋力10%

日常生活での体幹筋は最大筋収縮の5%、激しい運動でも10%程度しか活動していないKibler 2006)。体幹筋は随意運動でなくむしろ不随意運動である。この場合の不随意運動は脊髄反射でなく、脳幹から下降している錐体外路の指令のことである。錐体外路は、さまざまな情報を受けて随意運動の遂行、達成を補助している(Lemon 2008)。

あお向けや横に寝た姿勢でのエクササイズ

内腹斜筋を活性させる運動として片足ブリッジ、バードドッグ、プランクエクササイズが挙げられている。あお向けや四つんばいでの体幹エクササイズは随意運動として体幹筋を活性することができる。しかし片足ブリッジ(Stevens 2006)、バードドッグ、プランクエクササイズ(Imai 2010)での内腹斜筋の筋活動はせいぜい最大筋活動の20 – 40%である。直径65 cmのゴムボール(通称Swiss Ball)を使ってロールアウト、パイク、スキーヤーエクササイズでも最大筋活動の40 – 50%程度であるEscamilla 2010)。

写真はパイク(左)、スキーヤー(右)エクササイズ(Escamilla 2010

内腹斜筋最大筋出力の測定方法

ちなみに筋電図で内腹斜筋の最大筋出力を測定する方法は、まず被験者にあお向けに寝てもらい股関節と膝関節を45°に曲げてへそを背骨に吸い込ませるようにドローインしてもらう。それを保ちながら肩甲骨が床から上がるか否かの高さで最大のアブドミナルクランチをしてもらい、そこから検者が被験者の両肩を上から最大に押した値を最大出力(100%)としている。被験者も検者も結構必死になって最大値を決めている。

ツイストエクササイズ

独自のツイスト盤の上で被験者にツイストしてもらった。盤は土台に対し上の円盤が回転するような仕組みである。被験者には毎分90回と150回のメトロノームに合わせて左右各45°の合計90°のツイストを20秒間してもらった。また各速度において1)膝伸展位2)膝関節30°に曲げた運動ポジション3)スクワットの姿勢から一つの方向に膝伸展、逆方向に膝屈伸のスクワットの3種類のツイストを行ってもらった。どのツイスト運動においても両肩は極力正面に向けた姿勢を保ってもらい、腕はフリーに動かしてもらった(Tsuruike 2020)。

 

写真は膝伸展(左)、運動ポジション(右)

毎分150のメトロノームに合わせた膝伸展ツイスト運動の動画:

結果、膝伸展を保ちながら毎分150回のツイストで内腹斜筋は最大筋力の60%以上を活性させることができた。実験データの有効性を確保するために被験者にはツイスト運動の後に片足ブリッジ、バードドッグ、かかとと膝がしらのラインを整えた片膝つき姿勢で内腹斜筋を測定したが、どの運動も最大筋力20%にも達しなかった。

図は毎分150回のツイスト運動中の内腹斜筋の筋電活動。SLは膝伸展、APは膝屈曲位30°の運動ポジション、DEは連続スクワット。DOMは利き脚(ボールを蹴る側)(黒)NONは非利き脚(軸足側)(灰色)。縦軸は最大筋出力の割合(%)* P < 0.05

   

写真は片足ブリッジ(左)、バードドッグ(真ん中)片足膝たち姿勢(右)

腰方形筋と横隔膜

体幹の動きに働く筋としては腰方形筋がある。腰方形筋は前額面の安定だけでなく体前屈、伸展、体側にも働く。さらに横隔膜の働きも腹内圧を高めることから体幹の安定に欠かせない。しかし腰方形筋と横隔膜の働きが腰痛を予防しているかは明らかでない。

内腹斜筋のトレーニング

内腹斜筋は股関節屈曲にも共同筋として働いている(Pereira 2017)。その上で内腹斜筋を鍛えるなら立位で膝伸展ツイストするか、サウンドバッグでキックしその時の荷重側の地面反力で鍛えるかになりそうである。しかし荷重側の大殿筋が抗重力筋として働いているなら股関節屈曲筋は相反抑制になり、その結果内腹斜筋が働くかどうかわからない。

コアスタビリティエクササイズ

事前にプログラムされた筋活動

コア(体幹)は、文字通り体の中心のことで、運動中の下肢からの力あるいはエネルギーを効率よく上肢に伝え、実際の投球やサーブなど腕の早い動きはコアの始動があってのことであるKibler 2006)。そしてキネティックリンク(連動)エクササイズとしてテニスなどメディシンボールエクササイズをよく用いている。

メディシンボール後ろ投げ

Functional Movement Screen®(FMS®)にRotary Stability、Push-up、Hurdle Step(Stepping)によるコアスタビリティ評価がある(下の図参照)。FMSは動きのパターンを評価しているのだが、これら3つのコアスタビリティ評価の得点とメディシンボール(2.72 kg)後ろ投げに有意な相関関係があったOkada 2010)。メディシンボールの後ろ投げは瞬発力を測るとも言われている(Beckham 2020)。しかしメディシンボール後ろ投げには賛否両論もあり、特に技術的な要因もあってか統計的信頼性(反復性)に疑問が残る。さらにフットボールやラグビーなど全身瞬発力が求められる選手でも、その種目特異性とメディシンボール後ろ投げに相関関係があるかと言えばそうでもないMayhew 2005; Duncan 2005)。

 

写真メディシンボール後ろ投げはOkada 2010から転用。

女子選手のACL損傷予防とコア

ラボデータではあるが女子選手の膝ACL損傷予防と体幹の反応力に関係があるようだZazulak 2007; Zazulak 2007; Noehren 2014)。

 

図は体幹の反応速度を測定(Zazulak 2007)。写真は体幹の安定性をボールに座って測定(Noehren 2014)。

コアエクササイズと競技力

コアエクササイズを取り入れたからといって競技パフォーマンスが向上するかはわからない。思春期のクロスカントリー(Clark 2017)やサッカー選手(Prieske 2016)において競技力向上にコアエクササイズの有無の有意差はなかった。またトップスピードから急な方向転換において体幹安定の高いグループとそうでないグループ間でパフォーマンステストを調べた研究もあった(Edwards 2016)がどれをとっても期待する結果を導き出すことができなかった。スポーツの奥の深さがうかがえ、スキルと測定による予測の難しさが分かる。

上肢の動きと逆側の体幹筋

腕を急激に上げようとすると、その動作直前に逆側の内腹斜筋と腹横筋の筋活動が働くAllison 2008)。内腹斜筋と腹横筋は腹筋の中で最も深部に位置している。それに対し表層にある腹筋が外腹斜筋と腹直筋であるが、肩甲上腕関節の水平内転と伸展の最大筋力では逆側の外腹斜筋が立位時における体前屈と同じぐらい働いたTarnanen 2008)。

写真はTarnanen 2008から転用

立位において上肢の動きが重心をずらそうとする際に体幹は経験からか、二足歩行の我々ゆえにか腕の動きの前に体幹の筋活動を上げ姿勢が崩れるのを防いでいる。こうした研究報告から現場では立位あるいは片膝たちからのチョップ・リフトエクササイズが取り入れるようになった。しかしチョップ・リフトエクササイズのやり過ぎが腹斜筋の肉離れを引き起こすのではないかとATの間で逸話されている。

https://prehabexercises.com/chop-and-lift-progression/から転用

下肢の末梢感覚器の役割

立った姿勢のバランスは、目から入ってくる視覚情報や頭の傾きを司っている三半規管装置(内耳に存在)より下肢の感覚器からの情報(固有受容器/Proprioception)が重要な役割をしている。何もしていない立位でのバランスにおいて70%の感覚情報は固有受容器によるHorak 2006)。固有受容器からの情報は脊髄小脳経路でバランスを保たれながら、大脳皮質の体性感覚に伝えられる。たとえば目が開いていようがなかろうが立ってられるし、目を閉じると意外に足、脚からの感覚を察知できるものである。

タンデムで多裂筋、片足立ちで内腹斜筋

下肢の固有受容器の視点から利き腕による上肢のリズミカルな動きと4つの異なる立ち方での体幹筋の働きを比較した(Tsuruike 2018)。立ち方には利き脚のかかとと非利き脚のつま先を揃えるタンデム立ち、利き、非利き脚それぞれの片足立ちに両足立ちが含まれた。

結果、タンデム立ちにおいて多裂筋が有意に大きく働いていた。つまり多裂筋は不安定な立位時に働くことがわかった。一方、利き腕側の運動と逆側の片足立ちでは立っている側の内腹斜筋が有意に働き、それに対し利き腕側の運動と同側の片足立ちにおいて逆側つまり足を浮かしている側の外腹斜筋が有意に働いた。このことから内側腹斜筋は腕の動きに関係なく、体重をのせている足に対応しOkubo 2010; Mok 2015)、一方で外腹斜筋は逆側の腕の動きに対応しているTarnanen 2007)。投球動作やバッティング動作に応用できるのではないかと思った。

体幹エクササイズとスポーツ

フィットネスにおいてともかく体幹が強調されている。プランクやサイドプランク(肘を付いてサイドブリッジ)さらに仰向けで行うデッドバグや四つんばいでのバードドッグエクササイズなど体幹の筋活動がよく働く。

 

プランク(左)、サイドプランク(中央)、バードドッグ(右)、写真はImai 2010から転用

研究ではスポーツとの関連性を示すのはなかなか難しい。されど体幹!?

スポーツはスキルを獲得、向上して競い合う。スキルを向上していく中で必然と体幹の筋力も適応してくのだと思う。体幹があってのスキルには懐疑的で「鶏が先か、卵が先か」ではなく、体幹は各個人のスキルレベルのバランスだと思う。大切なことはコアスタビリティ(体幹)エクササイズを考えるなら連動性(キネティックリンク)の視点からではないかと思う。

キネティックリンクエクササイズ