セラバンドエクササイズ
セラバンドエクササイズは重力に影響なく、負荷は張力のみである。投球肩障害予防トレーニングにおいて立って行っても肩をすぼめることなくできる。ゴムバンドなので運動中の負荷は一定でない。伸ばせば筋活動が上がり、緩めばその活動が下がる。立位においては張力の変化が姿勢制御に影響を与える。
CLXバンド
CLX: Consecutive loopsは輪の連続ゴムバンドのことである。特徴として輪の中に手が入れやすい。さらに肘や膝にも輪を通すことができる。運動方法を工夫することができる。
運動負荷
CLXは一定間隔の輪なので運動負荷が計算できる。たとえば赤色のバンドの最大抵抗は1.7 kgである。そこで5つの輪のCLXを用意し、張力ゼロ(0)のところから2つ目の輪に手を入れ、最初の位置まで引っ張る。そうすると20 %(4/5)の長さを引っ張ることになり、単純に0.32 kg(1.7 kgの20%)あるいは320 gの張力の負荷になる。次に3つ目の輪に手を入れると60 %(3/5)引っ張ることになり、1.02 kgの張力になる。つまり引っ張る輪の数を分子に用意したCLXの輪の数を分母に計算し、あとはそれぞれの最大抵抗の大きさ(kg)に掛けることで運動負荷を計算することができる。メーカーが各色の最大抵抗の大きさを決めている。
このCLXバンドを用いて異なる腕の位置に異なる負荷で肩の筋活動を調べてみた(Tsuruike 2020)。腕の位置は、a) PNFのD1の位置(肩関節屈曲、外旋に水平内転、乗車後にシートベルトを取る位置)、b) 120°外転位、c) 90/90(肩関節外転90°外旋90°に肘関節90°屈曲位)であった(下の写真参照)。張力はCLXの赤を使い、長さの20%と60%の伸張を取り入れた。さらに等尺性筋収縮と自動運動を加えた。自動運動は毎分150のメトロノームに合わせた「リズミカル振動運動」であった。
90/90の腕の位置
D1の位置は、前鋸筋の筋活動が他の腕の位置よる有意に働いた。しかし僧帽筋下部線維活動がほぼなく、僧帽筋上部線維と下部線維の割合5倍になり、肩甲骨下角の突出ありインピンジメント症候群の患者には不適切だと判断した。
棘下筋筋活動
外転位120°と90/90の位置はそれぞれ僧帽筋下部線維が有効に働いていた。しかし外転位120°は90/90の位置に比べ僧帽筋上部線維の筋活動が有意に高かったので投球肩障害予防トレーニングの際は注意が必要である。また外転位120°では棘下筋の筋活動は90/90の位置に比べ有意に低かった(下の表参照)。棘下筋は肩甲上腕関節外旋に働くが水平外転運動にあまり働かない。
上の表は棘下筋の筋活動(最大筋力の割合%)である。赤色のCLXの長さそのまま(0%)と20%、60%に伸張(2段目)。D1、外転位120°、90/90の腕の位置での各筋活動が示されている。等尺性筋収縮とリズミカル振動運動の筋活動の違いが分かる。
リズミカル振動運動
毎分150のような比較的早い「リズミカル振動運動」を加えることで筋活動が1.5から2倍に増加した。これは大きな量的発見であった。
セラバンドは比較的古くからさまざまなリハビリエクササイズに取り入れられている。最大の利点は重力に関係ないことである。CLXバンドは運動に使いやすいだけでなく、負荷が決定できたことから筋電図研究にも使えた。