ウォーターホルダー

投球・サーブ障害肩予防トレーニング

運動中の身体バランス補正

習得した運動スキルを別の運動にも応用できるとしたら、その仕組みはなにか。たとえばアイスホッケーとゴルフです。実際プロアイスホッケー選手は引退後、ゴルファーになることがあります。その仕組みはステックを使ってパックを動かすあるいはアイアンでゴルフボールを飛ばすことが似ているからでしょうか。

身体バランス補正

 運動学習の先駆者N. Bernsteinは、異なる動きが他の動きに応用できるならそれは四肢の動き(キネマティックス)ではなく、運動中の無意識に制御される身体バランス補正(Background correction)であると説明します。身体バランス補正は、神経科学からだと錐体外路のことです。錐体外路とは脳幹から脊髄に下行し、随意運動を無意識に補助する機能のことです。さらに四肢を動かす際に姿勢を制御し、逆に外的な力で姿勢を崩すことでもあるなら、反射的にそれを抑えてくれます。一輪車とアイススケートは全く異なる下肢の動作ですが、運動中どちらともよく似た身体バランス補正をしています。どちらの運動中も重心の位置を常に補正しています。一輪車に乗れる人はアイススケートをしたことがなくても早く上手に慣れます。その逆も言えます。
一般的なトレーニングは筋力やパワー向上など個人の目的に沿って行われます。これらは意識的に大脳を活性させて行う随意運動になります。一方で種目特異性に沿ったトレーニングは意識的に四肢を動かしながら、無意識に身体バランス補正が伴います。

力の伝達の仕組み

 投球やテニスなどオーバーヘッド競技は、地面反力の力、エネルギーを下肢、体幹の連鎖運動から利き腕側に伝達することになります。鍛錬者は伝達それぞれのタイミングが優れていて、効率よく伝達できます。種目特異性のトレーニングとは下肢、上肢の力の発揮に合わせた無意識に制御される身体バランス補正とも言えます。

最終位の記憶

 非鍛錬者(初心者)は上肢、下肢の動き一つ一つ分習法で習得することになり、それぞれを上手く伝達できるまでにいくつもの過程があります。また動きの最終位のところを覚えてもらうためにいろいろな方法で固有受容器を刺激するような練習になります。最終位は記憶しやすいですが、一連の流れの動きを記憶することは容易でないからです。固有受容器は最終位の記憶に役立つだけでなく、その情報は小脳から脳幹を活性し、身体バランス補正の事前記憶にも役に立ちます。

まとめ

 身体バランス補正を意識付けたトレーニングもあります。意識付けと言って仰向けやプランク姿勢で体幹トレーニングを行うのでなく、あくまでも立位で行うことになり、そこに工夫が必要になります。たとえばチューブを用いるなどです。スポーツ動作に関連したいろいろな動きパターンのトレーニングは、身体バランス補正をいかに念頭において鍛錬するかであり、それが種目特異性のトレーニングにつながると考えます。

少年野球の投球障害予防

MLBピッチスマートの経緯

 投手から投球障害肩・肘を守るために考案されたMLB Pitch Smartガイドライン日本語版)があります。その礎(科学的根拠)になったのが2010年に発表された研究論文(Fleisig et al. Am J Sports Med. 2010;39(2):253–257)でした。研究は1999から2008年までの10年間、毎年秋に電話と過去1年間の質問で少年野球の投球障害を追跡する調査でした。追跡調査開始時の対象者は少年野球投手481名(9歳から14歳)でした。
10年間に投手の5%(25/481名)が重症な投球障害を受け、その内訳は3名が肘の手術、7名が肩の手術を受け、14名は投球障害の手術回避のため野球を止めることになりました。受傷の平均年齢は17.6(範囲:11.9-20.9)歳でした。

年間100イニングで投球障害3.5倍

 さらにこの調査はFisherの正確検定を用い70、80、90、100、110、120、130イニングの投球障害リスクを検証しました。その結果、年間100イニングの投球で障害を受ける割合は3.5倍に上ることでした。この調査研究は後のMLB Pitch Smartガイドライン日本語版)ができる基礎になりました。
また10年間の調査期間中、4年間投手でプレーできた割合が30%(143/481名)で、1年間の投球平均インニング数は71 ± 42.1でした。一方で3年以下プレーした投手は65%(313/481名)でした。調査開始から10年後の調査終了時点では2.2%の選手が投手としてプレ-していました。

少年野球投手481名の10年間の追跡調査期間中に投手としてプレーしている人数(下の黒)とポジション変更でプレーしている人数(上のダークグレー)(Fleisig 2010)

高校生投手のガイドライン

 2023年に新たな10年間の追跡調査研究(Shanley et al. J Shoulder Elbow Surg. 2023;32:S106–S111)がありました。調査開始時の対象者は中学、高校投手261名(平均年齢14.2 ± 2.6歳)で、彼らの10年間の投球障害肩、肘(オーバーユース)障害を追跡しました。上記、追跡調査開始時の対象者年齢が9歳から14歳でしたので、それより後、レベルの上がった追跡になります。
参加登録した98%の投手は最低1シーズン投手としてプレーしました。調査の結果、投手63名が障害を発生させていました。

 20%の投手は7年以上の追跡調査に参加し、短大、大学あるいはプロレベルでプレーをしていました。受傷しなかった投手191名のうち13%は高校卒業後もプレーし、一方で投球障害肩・肘に受傷した投手63名のうち56.2%は高校卒業後もプレーしました。

 10年間で投手100名に換算して25.6の肩、肘の障害が発生し、手術介入は投手100名に換算して5.9人でした。投球障害リスクは競技レベルが上がれば約5倍高くなりました。前回の聞き取りと違い、今回の障害記録はAT、PT、医師の診断であり、受傷に伴う治療を受け、最低1日の練習あるいは試合出場ができなかった選手でした。研究はMLB Pitch Smartの投球制限では投球障害を軽減することができないことを指摘していました。

 Pitch Smartの投球制限は少年野球や中学生に有効であって、高校生の投球制限としては再考を要するか、他の要因たとえば球速90マイル(時速144.8 km)のガイドラインを設けるなどが要するかもしれません。

早期野球選択と投球障害リスク

 関連して早期野球選択の研究論文(Croci et al. Sports Health. 2021;13(3):230–236)があります。対象者は全米NCAAに所属する大学野球II部の学生選手30名、III部の選手49名さらに全米NAIA大学選手34名、全米クラブ野球II部の選手16名の計129名(うち投手49名)の選手でした。調査は、野球をしていた13歳時を振り返っての質問とその後の障害発生を聞き取る後ろ向き研究でした。以下の3つの質問に「はい」と答えれば +1 の合計3点満点で比較するものでした。
「8カ月以上野球をしていましたか」
「他の競技よりも野球を考えていましたか」
「他の競技をやめて野球に集中するようになりましたか」
結果は、早期野球のみに集中した選手(3点満点)は、2つの選択、あるいは選択0か1選手に比べ5倍肩に障害を発生させていました。

まとめ

 投手のスキル習得は成長によるものなのか、指導によるものなのか、ともかく時間を要します。指導者は、投手が持ち前の能力を最大に発揮できるためにもまずは科学的ガイドラインに沿って、投手に経験を積み上げさせることが大切だと思います。そしてレベルを重ねるごとに専門の投球障害予防トレーニングが必要になるでしょう。

運動中の脳幹制御について

はじめに

私たち二足歩行のヒトは、上肢を自由に使うことができるようになり、その最大の特徴には繊細に握る、つまむ動作ができるようになった。このことで指先を使ったさまざまなスキルを習得できるようになり、ものを作り、さらにものを使って競う合うようになった。野球やテニスなど球技スポーツ、投てき競技のことである。

3つの運動パターン

私たちのパフォーマンスは神経学的に3つの運動パターンに分類でき、一つは随意運動、次に不随意運動、そしてリズムである。随意運動は意識的に筋肉を動かくことで、これは大脳皮質からの指令で行われている。スキル習得過程において練習の経験だけでなく、一つ一つの課題解決に向けて大脳を活性させて繰り広げる筋収縮のことである。

不随意運動

パフォーマンスにおける不随意運動は、随意運動の補助のことで特に姿勢制御のことである。立って上肢を使うことで下半身から体幹の緊張を要する。例えば投球動作は下肢を使った地面反力を上手く体幹から肩、腕へ力、エネルギーを伝達させていくことになるが、すべて随意運動でできているわけでない。複雑かつスピードのある動作は大脳以外に小脳や脳幹における身体のバランスの調整、下肢から上肢の動作の調節が行われている。

リズム運動

リズムは単純なところだと歩行のことである。平坦なところでのスキップもその類になる。複雑なパフォーマンスになればダンスやウォームアップのフットワークドリルもリズムである。リズムは事前にすべての動作が計画され記憶された動きのことである。歩行やランニングは脳幹にある中脳歩行誘発野(mesencephalic locomotor region)で制御され、脊髄レベルで中枢パターン発生器(central pattern generator)が働き、スムーズな繰り返し振子運動が行われている。今回は、上肢の特徴とパフォーマンスの視点から不随意運動(脳幹制御)の特徴を掘り下げてみたい。

下行腹側内側路

立っている時、両側の体幹の筋肉を緊張させている。体幹の筋肉を活性させる神経回路は脊髄の腹側内側に下行し、そこから交叉して逆側の運動ニューロンに接続する。脊髄の腹側内側には脳幹からも下行している。下行とは神経回路の遠心性のことで、高位中枢神経から脊髄レベルに指令が伝達されることである。脳幹は脊髄の上に位置し、下行路だけでなく末梢からの情報を伝達する上行路も走行していている。さらに脳幹は運動に不可欠な小脳への伝達も担っている。脳幹から発する下行には網様体脊髄路、前庭脊髄路があり、伸展筋を収縮させる。伸展筋とは抗重力筋のことで、つまり重力に対して立つために必要な筋肉のことである。たとえば下腿三頭筋、大腿四頭筋、殿筋、脊柱起立筋、腹筋である。

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下行腹側内側路で左側の青のラインは大脳皮質(cerebral cortex)から脊髄の腹側内側に下行し、体幹筋の運動ニューロンに接続している。右側の緑のラインは脳幹(brainstem)から下行し同じく体幹筋の運動ニューロンに接続している。体幹筋は随意で意識的に制御も可能だが、姿勢制御だと左右両方が同時に収縮している。Lemon 2008

体幹の特徴

体幹の筋肉を収縮させる運動ニューロンは脊髄灰白質の腹側内側に位置している。灰白質とは神経細胞が存在しているところである。随意運動つまり大脳皮質の指令なら片側の筋肉を収縮させることができるが、指や手などのように体幹の筋肉を繊細に制御ができなく、むしろ周辺の筋肉も同時に働かせる。

うつ伏せで代償運動を最小限

肩甲骨を安定させる運動に立った姿勢でベッドの端を伸ばした腕に手で押しながら肩甲骨を内側に寄せる「low-rowエクササイズ」がある(下の写真)。目的は僧帽筋下部を活性させようとすることであるが、立位で行うことで脊柱起立筋や殿筋さらに肩甲骨を背骨の方に寄せるため胸を開こうとすることから股関節運動も働き、本来の目的の僧帽筋下部の活性が他の筋肉で補われる。立った姿勢で行うとどうしても代償運動が発生する。

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low-rowエクササイズ:体幹、腕の伸展、肩甲骨内転運動 Kibler 2006

代償運動を最小限にするにはうつ伏せで行うことになる。リストカフ(重錘バンド)を手首に付け、ベッドの端に腕を垂らし、肩から腕を後ろに引き、体側を超えたところから肩を外旋する(下の写真)。

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腹臥位でLow-rowエクササイズ(肩伸展運動)

体幹の貢献度

そもそも体幹筋は立っていて姿勢を崩した時に働くのであって、立っている時の腹筋は体幹の捻じれや体前屈に働かない。Kiblerは、体幹の筋活動について日常生活なら最大筋力の5%、それなりの激しい運動でも最大筋力の10%程度であると説明する。

そこでいくつかの姿勢で体幹筋の働きを調べてみた。1)片足ブリッジ、2)バードドック(四つんばいで肘伸展で腕と逆側の膝伸展で脚を持ち上げる、3)前脚と後ろ脚を一列にした片膝立ち(FMSのNarrow half kneeling)姿勢で内腹斜筋の筋活動を測定したら10%弱から20%以下であった。

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左から片足ブリッジ、バードドック、狭めた片膝立ち
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グラフは片足ブリッジ(SLB)、バードドック(BDP)、狭めた片膝立ち(NHK)時の内腹斜筋筋活動量。平均活動は最大筋力の9~17%程度であった(Tsuruike 2020)。

片足立ちで体幹筋の評価

Kiblerは体幹筋の評価を片足立ちで後ろに反り返り戻れる壁までの最大の距離を測る。さらに壁の前に後ろ向きで片足立ちになり、体を後ろ捻じり、捻じった側の肩が触れる最大の距離を測る。最後に壁の横に片足立ち体の側屈で壁に肩が触れる最大の距離を測ることを推奨している。

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体幹筋の評価として片足立ちから反り返り、捻じり、側屈を行い、壁から荷重の足までの距離を測る(Kibler 2006)。

プランク姿勢

プランク姿勢は体幹トレーニングの代名詞とも思われているところがある。フロアーで行うプランク運動は姿勢の変化がないので脳幹からの補助はなく、体幹筋、大腿四頭筋、肩甲骨周辺筋の疲労は脊髄の後側から上行し、大脳皮質にその情報は伝達され、大脳皮質の活性を高めるだけのことになる。
サイドプランク姿勢で体幹の揺れがあるなら、その情報は脊髄の前側から小脳に上行し、小脳が脳幹を経て姿勢の揺れを抑えさせながら、大脳皮質の体幹筋の活動を調節することになる。さらに吊りバンドに両足を引っかけたり、バランスボールに足と肘を載せるなら脳幹の関与もあるが、大脳皮質で最大に近い筋活動を引き起こす。いわゆる意識的に気張る動作になる。

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プランク姿勢での外腹斜筋(左): 37-53% MVIC (Calayayu 2017Ekstrom 2007Escamilla 2016Imai 2010)吊りバンドに両足を引っかけたプランク姿勢での外腹斜筋(右): 59%-70% MVIC(Cugliari 2017Mok 2014
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サイドプランク姿勢での外腹斜筋(左): 62-82% MVIC(Calayayu 2017Ekstrom 2007Escamilla 2016Imai 2010Youdas 2014)。バランスボールに足と肘を載せたサイドプランク姿勢での外腹斜筋(右): 99% MVIC (Imai 2010

固有受容器

立った姿勢のバランスは下肢の固有受容器の働きに依存している。固有受容器とは空間における上肢、下肢それぞれの位置を伝える末梢感覚器のことである。たとえば筋の長さや収縮速度を監視している「筋紡錘」や筋の張力を監視している「ゴルジ腱器官」のことである。末梢の情報は大脳皮質の体性感覚野で知覚するが、普通に立っているだけなら随意運動での調整に至らず、小脳や脳幹で調整できる。つまり大脳皮質の指令は最小限で済む。

FMSのスクワット

肘を伸ばし両手を上げた姿勢で大腿部がフロアーに対し平行になるまでスクワットをする。その際に上げた腕が前に行かないように肩の位置を維持するFMS(functional movement system)の動きのパターンがある。スクワットは膝が割れたり、内側に入らないことが前提であるため、スクワットの際に大腿部、殿部に意識がいき、肩の位置の制御は簡単でない。しかしこの肩の位置を維持するためにチューブで外に引っ張り、広背筋、大円筋、さらに大胸筋の筋活動を高め、大脳皮質の下行路を活性させる。このことで脳幹からの補助も活性し、比較的無意識に両肩の位置が維持ができる(下の写真)。

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チューブを外側で引っ張ることで広背筋、大円筋、大胸筋が活性した状態でスクワット。腕を伸ばしてスクワットすると腕が顔の前にいっていたのが、肩の内転運動で腕が頭の上に維持できる

FMSロータリースタビリティ

さらに四つんばいの姿勢で同側の肩と股関節持ち上げるロータリースタビリティと呼ばれるFMSの動きのパターンがある。同側の腕と脚を上に持ち上げることは容易でなく、動作中に体幹を持ち上げ続けることができるのか困惑するところである。そこで動作の前に肘と膝を寄せ、その際の体幹のバランスに必要な筋群を最大に収縮させる。FMSのスクワットと同様にまずは大脳皮質の下行路を活性させる。そのことで姿勢補助の脳幹も活性でき、四つんばいであるにもかかわらず体幹の抗重力筋が働き、同側の腕と脚を持ち上げることが予想以上に可能である。

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FMSのロータリースタビリティで同側の腕、脚を持ち上げる前に肘と膝を付け合わせ、体幹の位置ができるだけ左右均等になるように確認しながら腹筋を中心に最大収縮を試みる(大脳皮質の下行路を活性)。

力の伝達作用の体幹

体幹は姿勢維持に働くことが主な役割である。一方で体幹は、投球動作の下肢で作り出す地面反力の力とエネルギーを上肢に伝達する働きにもなる。この伝達作用は運動目的の機能動作であり、随意運動で行うものでなく、いかにして脳幹からの制御で体幹筋群を調整できるかである。

片足立ちにおける脳幹の制御の違い

実験で被験者に利き腕側の片手に手作りの器具を振り回してもらった。運動は毎分90回のリズムで振り回してもらい体幹から腕に向かって遠心性の加速が生じている。さらに運動中に利き腕側と同側の片足立ち、逆側の片足立ちを行ってもらい、その間の体幹筋群の働きを調べた。肩の負担を考慮に入れ肘を曲げての振り回しであるが、利き腕側と同側の片足立ちで、その逆の外腹斜筋の活動が有意に高まった。一方で非利き腕側つまり逆側の片足立ちだとその立っている側の内腹斜筋の活動が有意に高まった。片足立ちの上肢運動における外腹斜筋や内腹斜筋の変化は脳幹からの制御の違いだと考える。

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左の写真は上下のキャストが回り、被験者に毎分90回のメトロノームに合わせて利き腕で振り回してもらった。遠心力が働き、体幹筋の緊張が見られた。特に利き腕側の逆側で片足立ちすると荷重側の内腹斜筋が有意に高まりで(左のグラフ)、利き腕側と同側で片足立ちすると逆側の外腹斜筋が有意に高まった(右のグラフ)(Tsuruike 2018)。

全身リズム運動の脳幹の働き

別の実験で被験者に左右回転する丸い板の上で下半身をツイストしてもらった。運動は最大毎分150回のリズムで左右それぞれ45°(合計90°)の回転を連続20秒間行ってもらった。運動中の肢位には1)膝、股関節それぞれ30°に屈曲した姿勢、2)膝、股関節伸展した姿勢、3)さらに膝、股関節30°屈曲から伸展してもらうダイナミック姿勢であった。結果は、膝、股関節伸展した姿勢で内腹斜筋が最大の60%以上活動したことであった。つまり同じツイスト運動でも下肢の動作を最小限することで体幹筋活動を高めた。全身リズム運動は大脳皮質による大腿部緊張から脳幹(中脳歩行誘発野)に移るなら、体幹の緊張も脳幹による制御が大きくなる。

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左の写真は円盤上をツイスト。右のグラフは被験者に膝、股関節を伸展(SL)でツイスト、膝、股関節を30°屈曲(AP)でツイスト、膝、股関節30°屈曲から伸展しながらツイスト。ツイストは毎分150回(BPM)のメトロノームに合わせてツイスト。結果、下肢伸展でツイストすることで内腹斜筋が有意に高まった(Tsuruike 2020

体幹トレーニングの考え方

スポーツにおいて体幹は、下肢で作りだす地面反力を上肢に伝達する投球動作、サッカーのように上体の安定から生まれるドリブルやキック力、さらにバレーボールの空中でアタックするための安定など極めて重要である。

スポーツによる習慣性動作は時に慢性腰痛を引きを起こす。腰痛による周辺の筋スパズム(拘縮)を軽減するためにアブドミナルクランチ、さらに仰向けでデッドバグや四つんばいのバードドック運動がある。まずは筋スパズムを和らげ腰部の柔軟性を高めることで慢性障害予防することになる。

スポーツに参加する中学生、高校生は成人選手に比べ体幹の使い方がうまくなく、しばしば膝関節の靭帯損傷などを引き起こす。特に思春期女子選手には運動中の姿勢の意識付けを教える必要がある

しかしスポーツに必要な体幹の鍛え方は、プランク姿勢など大脳皮質からの随意運動で鍛えるのでなく、上肢、下肢の運動の中で鍛えることで運動中に必要な脳幹による制御が高まるのではないか。ケーブルマシンを用いたチョップ・リフトエクササイズも有効であるが、同じ方向の運動、同じ筋肉の働きにになりがちである。本来の脳幹の制御は四肢の補助であり、予期せぬ姿勢制御である。トレーニングによる体幹筋の意識付け(随意運動)は本来の予期せぬ制御と異なり、「逸話的になるが」腹斜筋の損傷を促すことになるかもなしれない。一方でメディシンボールを用いたトレーニングはフリーモーションであるため体幹筋の意識付けでなくあくまでも上肢の補助である。

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メディシンボールで両手サイドスロー

ポッドキャストでも下行路[皮質脊髄路(錐体路)、錐体外路]と運動について話しています ⇒ 運動中の脳幹の働き

高校生投手の球速と肘障害

時速90マイル(144.8 km)

アメリカの高校生投手にとって時速90マイル(144.8 km)をスカウトの前で投げることが一つの目標になっているかもしれない。そんな球速ブームの昨今に警鐘を鳴らすかのような高校生投手の球速90マイルとトミー・ジョン術の関係を示した論文がある。

投手全体の27%がトミー・ジョン術

2010-2020年の間にメジャーリーグベースボール(MLB)の5巡までにドラフトされた投手845名の後ろ向き研究によると全体の27% にあたる229名がトミー・ジョン術を受けていた。MLBドラフト5巡以内の選手とは才能をもった有望選手のことで投球メカニクスも優れていると言える。またトミー・ジョン術とは投球側の肘の内側側副靭帯(アメリカではこの靭帯ことを尺側側副靭帯と呼んでいる)再建術のことである。最近で言えば、前田健太選手(現デトロイトタイガース)や大谷翔平選手も受けた再建術のことである。

高校時に90マイルを投げる投手は、高校時に投げられなかった投手に比べ、トミー・ジョン術を有意に多く受けていたことであった。同様に高校時に最高球速92マイル(148 km)以上投げる投手も投げられなかった投手に比べトミー・ジョン術を有意に多く受けていた。ただし高校投手で速球95マイル(153 km)を投げる投手はトミー・ジョン術のリスクが低かったことであった(オッズ比0.43)。この場合のオッズ比は球速95マイルの投手の中でトミー・ジョン術を受けた割合とその球速に達しなかった投手らが受けた割合の比なのでオッズ比1以下はトミー・ジョン術リスクが低いことになる。

さらに229名の選手のトミー・ジョン術を受けた時の平均年齢と標準偏差±1(22.3 ± 2.9歳)から19.4歳以下の早期群27名と25.2歳以降に手術を受けた後期群29名に分けて比較すると早期群は後期群に比べ大リーグでの登板が有意に少ないことであった(48.1% vs 86.2%)。

関連論文では高校時に球速90マイル(144.8 km)を投げ大リーグで登板した投手は、 大リーグで登板できなかった投手に比べてトミー・ジョン術までが有意に遅かった(5.8年 vs 4.3年)。これは高校時に球速92マイル(148 km)投げた投手にも言え、大リーグで登板する選手は、大リーグに登板できなかった選手に比べてトミー・ジョン術まで有意に遅かった(5.5年 vs 3.6年)。

アメリカの高校生投手にとって球速90マイルをスカウトが集まるShowcase(セレクション)で見せることはMLBにドラフトを受けるあるいは大学進学のためのスポーツスカラシップを獲得することにつながる。その一方で肘に負担をかけることにもなり兼ねない。たとえば19.4歳以下の早期でトミー・ジョン術を受けることになれば逆に大リーグまでの機会が薄れることになる。

19歳以下までの後思春期の選手が効率の良い投球メカニクスを習得したとしても、骨をつなぐ靭帯を保護するための筋力、体力があるとは言えない。最近特に球速向上のための特別な運動も開発され一昔前に比べ高校生投手が球速140-150 kmを投げることも珍しくない。スカウトにとっても球速は選考の説得材料にもなる。しかし今回の研究論文から球速90マイル(144.8 km)を投げるだけで大リーグに達するものでなく、むしろ早期にトミー・ジョン術を受けるかもしれないことであった。

文献
Kriz et al. Ulnar collateral ligament tear in elite baseball pitchers Am J Sport Med. 2022:50(11):3073-3082.
Kriz. Effect of High School Showcase Exposures and Timing of Ulnar Collateral Ligament Tear on Professional Baseball Careers in Elite Pitchers. Am J Sport Med. 2023;51(4):926–934.

アメリカに全国高校選手権大会はない

アメリカの高校にはインターハイや野球なら甲子園のような全国大会はなく、各州の選手権大会までである。スポーツ競技の全米選手権は大学(National Collegiate Athletic Association通称NCAA)からである。ゆえに高校生にとってShowcase(セレクション)が選手の能力を示す機会である。
Showcaseとは選抜チームを形成し、実際に競技を設ける。参加は選手の任意であり、学校とは関係ない。そのため必要経費は各個人負担になる。
高校生はShowcaseを運営しているウェブサイトに登録し、プロフィールだけでなく個人の公式戦動画もアップする。ウェブサイトはShowcaseを運営するだけでなく、選手レベルもランキングしている。有名な主催側にはPerfect GamePrep Baseball Report があり、大学コーチやMLBスカウトも選手のスカウトにサイトを活用している。

運動スキルとパフォーマンス

運動スキル習得

人はボールを投げたり、野球ならバッドで投げられたボール打ち返したり、テニスのサーブさらに剣道や弓道など運動のスキル習得で競い合う。運動スキルとは目的のために各関節を動かす随意運動のことであり、パフォーマンスのことである。
スキル習得には段階があり、始めに頭で動かし方を理解し、運動達成までの一連の流れを学ぶ。次に一連の流れを実際に行い、頭で理解していたこととの違いを知る。習得したいスキルにもよるが簡単にまねができる動きもあれば、すぐにできないスキルもある。

タイミングがすべて

指先や左右の手を使う楽器など細かいスキルは分習法で単純な動きからの開始になる。一方で野球の打撃やテニスやバレーボールのサーブはバッドやラケットあるいは手にボールを当てることはできても、強く前に飛ばすとなると手先だけでなく下半身からの連鎖運動が必要になる。連鎖運動で大切なことはそれぞれのタイミングである。関節から関節、体幹から上肢近位部、さらにバッドあるいはラケットをもつ手までの一連の流れのタイミングである。しかも大腿部やでん部のような大きな筋肉から前腕の筋肉まで大きさも違えば、運動制御の仕組みも違ってくる。たとえば一つの運動ニューロンで支配している筋線維の量が異なる。
随意運動は頭の中で指令する筋収縮のことであるが、それだけではとても打撃やテニスやバレーボールのサーブはできない。体幹部や付け根の筋肉は一定に緊張しているのでなく必要時にタイミングよくしっかり収縮できるかである。

分習法

運動スキルとは各体節(筋肉を含む関節)のタイミングの動きを習得することである。投手の投球動作の習得となればワインドアップ、コッキング、加速、ボールリリース、減速、フォロースルーと言って一連の動作を期分けした分習法があるほど、各期の要素をしっかり習得しなければ習慣性障害で肩や肘を痛めてしまう。
投手は、ボールの大きさや重さ、マウンドの高さからホームプレートまでの距離すべて同じ環境下でスキル習得することになる。しかし競技するとなれば話は変わってくる。言うまでもなくホームプレートの幅内でバッターの膝から胸までの間にボール投げなければならない。投手は球速の緩急、変化球を交えた投球を行うことになる。これもスキルでありパフォーマンスである。

一方で、打者が投げられたボールに当てるには少なくもホームプレートから9フィート(2.74 m)までにバッドを振り始める必要がある。プロ選手は5.5フィート(1.68 m)までボールを見極めて振ることができる。どちらせにボールが当たるのを見て振るのでなく、あくまでも勘で振っている。ゆえにプレート近くの変化球に打者は対応できず、空振りかチップするのが関の山である。

知覚と予測

スキル習得の段階で自身の感覚器(または固有受容器)からの知覚とコミュニケーションができれば予測も立てることができる。さらに計測と自身のパフォーマンスを比較することもできる。計測にはたとえば投手なら球速や回転数、回転軸などの数値のことである。

計測器と運動後の知覚

投球動作中、身体のバランスからボールリリースにいたるまでリズム運動になる。ボールリリースでは肩内旋角速度が毎秒8000°に及びとても腕の位置を随意運動で整えることはできない。つまり投球中は神経回路で調整は不可能である。しかし感覚器から記憶として呼び起こすことは可能であり、計測器からのデータと運動後の知覚の記憶を比較することができる。

パフォーマンスの特徴

スキル習得とは半永久的に身につけたことであるが、試合などで競い合うパフォーマンスは一回の表現である。パフォーマンスの特徴には6つある。一つは「向上」である。パフォーマンス向上にはすぐに学ぶスキルもあればある程度の反復練習ができるまで時間のかかるスキルもある。また向上の途中にあるのがスランプである。順調にスキル向上できなく、ある一定のところで向上の停滞に陥る。スランプ打開には基礎に戻ることや熟練者からのアドバイスなどさまざまな方法はあるが、何よりも自身の競技経験が必要である。練習と試合はまったく別、ゆえんである。

一貫性

次に、「一貫性」である。MLB(大リーグ)選手のインタビューで ”consistency” と言うことを聞く。投手にしても打者にしても自身のスキル、一連の動きを一貫する大切さを強調する。インタビューを聞いていて身に付けたタイミングを貫くことがいかに難しいか、しかしできたことがパフォーマンスにつながったと話している。パフォーマンスの特徴に一貫性がある。

安定性

3つ目は「安定性」である。安定とはチームスポーツならシーズン制で競い合う。つまり試合日程は事前に決まっている。シーズン中の体調管理を専門家とともに行い万全を期して準備しているのだが、やはり疲労はある。あるいは屋外スポーツなら天候に影響を受けることもある。さらに海外では移動時間だけでなく時差も発生する。選手は内的、外的なストレスの中で安定したパフォーマンスを発揮できるかである。

粘り強さ

4つ目は「粘り強さ」である。年齢的、体力的にパフォーマンスピークあるいは自身の能力などで限界をつくるのでなく、新しい目標も見つけ目標達成のためのスキルを身につけていくことがパフォーマンスの特徴でもある。

適応性

5つ目は「適応性」である。おかれた環境下で最善を尽くすことである。高校から大学あるいは日本リーグさらにプロスポーツと言ったレベルが異なる環境下で習得したスキルを使っているはずが環境の違いから戸惑うこともある。ましてや外国のチームに移籍したとなると言葉から文化的背景の違いもある。習得したスキルを駆使するにはまず環境に適応しなければならない。また新しい仲間との人間関係も築かなければならない。さらに新しい対戦相手にはこれまでにない戦術、戦略を含め再考する必要もある。最善のパフォーマンス発揮には適応がある。

最小限の注意

最後に「最小限の注意」である。動作スキルのタイミングも注意することなく容易に行うことができることである。このことで他のことが見え、予測の幅が大きくなる。究極のパフォーマンスとは最小限の注意で行うことである。

Capacityからcapability

選手のスキルは経験から得るキャパシティ(capacity)の大きさに関係する。キャパシティとは容量のことであるが、その大きさを広げることができかである。良く山登りに例えられ「今置かれているところは6合目か7合目」であるなどの表現を聞く。上に登れば見える視野も変わる。キャパシティとは視野を広げることであり、そのことで潜在能力を高めることができる。潜在能力をポテンシャルとも言うが、この場合はケーパビリティ(capability)のことである。広げた「視野」を使える潜在性のことである。

動体視力を高めるためには

目から入ってくる情報は後頭部にある脳(後頭葉あるいは視覚野)に届けられ、そこから情報は側頭部にある脳(側頭葉)あるいは頭頂部にある脳(頭頂葉)で分析されます。側頭葉に送られる情報は文字やカラー、意味など静止した情報を処理し、頭頂部では動いている視界情報を処理します。
走っている車などの情報は動いているので頭頂部で処理されますが、自らも運転していて前方の車が同じスピードなら「静止」状態になり得ます。静止した視覚情報なら側頭葉から必要に応じ前頭部の脳(前頭葉)へと送られます。前頭葉は額にある脳のことで、側頭葉からの視覚情報を過去の経験や時には感情に照らし合わせ、意思決定を行います。

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視覚情報はまず後頭葉(視覚野)に届き、静的な情報は側頭葉(紫色)、動的な情報は頭頂葉(黄緑色)へ送られ分析、処理される(https://en.wikipedia.org/wiki/Two-streams_hypothesis)

同時に複数の物を見る練習

一つのことだけを見るだけなら瞬時の意思決定に問題はないのですが、同時に複数のことを見て意思決定をするとなると遅れます。動的視力を高めるには、日ごろから同時に「複数の物を見る」訓練が必要になります。クラスター(集合)から判断できる能力のことです。見るだけでなく素早く行動を起こす訓練も必要になります。例えば「もぐらたたき」であればすべての穴を見て反応できるようにするなどです。自らも動いての動体視力ならバスケットボールの3対3のような味方と相手、ボールを同時に見るような練習方法が有効になります。運動においては、視覚、時に聴覚、頭の動きの知覚情報を同時に処理する訓練も動体視力を高めることに繋がります。

視覚と指先の連結

視覚と指先の動きは連結することができます。慣れればかなりの精度で、しかも反射的に連結できます。例えば野球のキャッチボールなど目からの情報とボールを取る運動です。

頭の動きと眼球の連動

外野に飛んだフライボールを追うとなると体を捻りながら走り、同時に左右の頭の動きが発生します。その際の頭の動きと眼球の動きも連動しています。この場合ボールから目を離さないために頭の動きの逆側に眼球が動きます。

動体視力と注意力

動いているものを見るなら視覚情報は頭頂葉に向かいます。この時必要になるが注意力です。注意がなければ動いている視覚情報は認識されないためです。たとえば走っている車の車種やカラーなど気にならないのが一般ですが、興味ある車が走っていると見ようと注意し、いろいろ比較したりするかもしれません。比較するなら前頭葉で行われますので頭頂葉に映し出された動画の一コマ、一コマを前頭葉に送ることになります。

費用対効果の代償

動体視力には2つの欠点があります。一つは費用対効果の代償です。例えば相手が予測通りの動きなら反応は速く、外れれば余計に反応時間がかかることです。2つ目は相手のフェイントに惑わさせられることです。これはラグビーやバスケットボールでよく見る相手を引き出し抜くテクニックのことです。
恐らく剣道の達人になるとこれら費用対効果の代償やフェイントは通じないでしょう。彼ら目に見えない「心の動き」を読み始めているかもしれません。 つまり予測の予測です。

想定内の容量

最後に動体視力を高めるには如何にして想定内の容量(キャパ)を増やせるかになります。事前に起こり得ることは頭に入れれば入れるだけ動体視力に役に立ちます。一方で予期せぬできごとや自分の名前が耳に入った時などは注意力が逸れ、動いている視覚の処理に影響を与えます。また事前にアドバイスがあったならそれを思い出すたびに自ら行動に影響を与えるかもしれません。

ヒトの神経回路はある意味ケーブルのようなものです。しかしヒトの神経回路はインターネットの「光ファイバー網」のように取り換え、速度を上げることができません。動体視力を高めるには同時に複数の情報処理する能力を鍛えることや事前の想定内キャパを増やすことでできます。これを神経科学では可塑性(plasticity)と呼んでいます。

ワーキングメモリー

視覚情報に瞬時の記憶を引き出し前頭葉で意思決定する際に欠かせない能力が「ワーキングメモリー」です。ワーキングメモリーとは一般に7つ前後の数字を覚える程度の記憶量で、目的、この場合意思決定が終われば忘れます。しかし私たち人ととしてのクリエイティブ(創造)をする時このワーキングメモリー量と睡眠が大いに関わっています。またワーキングメモリーとドーパミン放出量は比例し、ドーパミンは報酬だけでなく意欲動機付けに関係します。

錯覚

健常な私たちの行動で最も頼っている感覚器が視覚です。しかし視覚はしばしば錯覚することがあります。主に処理の過程で思い込みや偏見で起きます。一方で聴覚や嗅覚は錯覚がなく瞬時に危険性を認知させてくれます。つまり良いか悪いか、安全か危険かです。例えば飛行機整備士がハンマーで軽くたたくのは音の違いで不良を判断します。

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錯覚その1 横の線の長さは同じだが違うように見える
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錯覚その2 オレンジの淵が外か中で羊の毛の色が違うように見える

投球障害肩予防トレーニング

肩関節と投球動作

身体の中で最も可動域のある肩はさまざまな運動を可能にしています。スポーツもその一つで特に投球やテニス、バトミントンのサーブ、バ`レーボールのアタックなどがそうです。

習慣性スポーツ活動は目的の運動に合わせて肩周辺の筋肉も発達させます。運動「スキル」が上達すれば最小限の筋力で運動の最大効果を発揮することができます。

運動学習

スキルを習得するには反復練習でフォームを確立することになります。特に投球やサーブのフォームは「クローズド・スキル」と呼ばれ、試合中であっても自らが開始する運動になります。サッカーやバスケットボールなど相手の動作による反応が前提の「オープン・スキル」と違い、クローズド・スキルは正確性、スピードを高めるための練習になります。

フォームを固めるためには部分トレーニング「分習法」や器具で類似の練習も行うことになりますが、トレーニングはあくまでも種目に沿った「特異性」になります。そして最終的には試合形式の練習が必要になります。さまざまな環境下の試合で習得したパフォーマンスの正確性やスピードを発揮するためには「失敗から学ぶ」経験が必要になるからです。

腱板/関節唇損傷

フォーム習得までの「反復練習」はその質を追求するがゆえに腱板と呼ばれる肩関節周辺筋を損傷させることになります。スキル習得後の効率良い筋肉の働きは逆に関節包や関節唇と呼ばれる肩関節内の結合組織を損傷させることになります。この場合の損傷は「症状としての痛みがでる」こともあれば「関節自体が適応する」こともあります。

特別なトレーニング

腱板や関節唇の損傷をできる限り避けるための予防を「特別なトレーニング」と呼び、チューブやミニメディシンボール、リストカフなどリハビリテーションに使う器具を使い、肩関節から肩甲骨周辺筋つまり投球やサーブに関係する筋肉を鍛え、肩を痛めないようにする必要があります。

関節弛緩の問題

個人によって異なるのですが「関節弛緩の問題」もあります。どの関節も弛緩はあるのですが、特に肩関節は「ゴルフのティ」に「ゴルフボール」が乗った球関節でありそれが大きいです。

肩関節の弛緩が比較的に大きい選手は早い段階で肩に慢性痛を発生させるかもしれません。そうでない選手もスキル向上に伴いやはり慢性痛を発生させることになります。特に肩関節前方不安定性を示す選手は肩を痛めやすくなります。慢性痛を避けるためにより多くの「特別なトレーニング」が求められます。

肩関節の評価

肩関節の評価は「機能」になり、つまり個人の運動(目的)が達成できるかになります。その機能にあった関節可動域を獲得することになります。ゆえに肩関節に限っての評価は「関節の安定性」でなく個人の機能評価になります。

投球やサーブなどのスキルは地面反力からの力、エネルギーを下肢から体幹、肩甲骨を通じてボールやラケットを握っている手に伝えることができるか、キネティックリンクの効率になります。しかし肩の痛みとなれば肩甲骨の動き、肩関節の可動域の改善がまず求められます。

肩甲骨の動き

肩甲骨は、前傾/後傾、外転/内転、内旋/外旋、上方・下方回旋と呼ばれる8つの動きが腕の動きに合わせて起こります。肩甲骨の適切な動きが起きなければ肩関節を痛めることになります。特別なトレーニングは肩甲骨の動きを最大かつ最適に引き出す運動になります。

投球障害肩予防トレーニングの研究は興味深く、この10年間積極的に取り組みエビデンスに基づいたエクササイズを確立しています。その結果、投球動作に必要な腱板の筋力も向上することがわかってきました。

最新UCL再建術ーハイブリッド術に迫る

アメリカの最新再建術ーハイブリッド術のすごさをエビデンスでひも解く

野球肘で最も多い手術がトミー・ジョンと呼ばれている肘の内側側副靭帯の損傷による再建術です。1974年にFrank J. Jobe医師によって初めて執刀され、その時の患者がメジャーリーグ(MLB)のTommy John投手でした。彼は手術後にMLBで164勝を挙げ、このことからトミー・ジョン術と呼ばれるようになりました。肘の内側側副靭帯は前腕小指側の尺骨(ulna)に付いていることからアメリカではUCL(ulnar collateral ligament)と呼び、その損傷をUCL損傷、トミー・ジョン術あるいはUCL再建術と呼んでいます。 マガジンでは、MLBのトミー・ジョン術の現状、UCL再々建術(2回目のトミー・ジョン術)、復帰率をエビデンスから説明しています。 野球に興味ある方、トミー・ジョン術に関心ある臨床家、大谷翔平選手の肘のゆくえに興味ある方に是非一読していただければと思っています。

マガジン「MLBのトミー・ジョン術ー大谷選手の肘をエビデンスでひも解く」はnoteで。

神経科学からみたエクササイズ

エクササイズ

エクササイズは、ある特定の目的を改善するための身体運動です。目的は、運動不足解消からプロポーション維持、アンチエイジングまでさまざまです。さらに怪我をして、痛みが解消したなら怪我の前のコンディションに戻すためにもエクササイズをします。

スポーツ選手なら怪我の予防のためにルーティンワークとしてエクササイズを行います。パフォーマンスに関するエクササイズなら筋力、瞬発力、跳躍力からパワー向上のために行い、個人のスポーツスキル向上に繋げます。パフォーマンスという全身からの出力なので体幹部を強調したりもします。

体幹部の筋力の実際は日常生活で最大筋力の5%、それなりの激しい運動でも最大筋力の10%ぐらいしか活性していないと説明されています(Kibler 2006)。

随意運動、反射、リズム

エクササイズ、身体運動を神経科学視点で考えるなら、大きく3つに分けることができ、1つは随意運動、次に反射、3つ目にリズムです。

随意運動は意識的に筋肉を動かす運動です。たとえばアームカールやスクワット、マシンエクササイズなどのことです。

反射は、熱い物を触った時に熱さの感覚の前に手を引くなどの脊髄反射から身体バランスを崩した際、転倒を防ぐために抗重力筋の緊張など無意識的な反応があります。スクワットは股関節、膝関節の伸展運動、随意運動なのですが、背中や胸など意識的に緊張しているのでしょうか。パーソナルトレーナーなどによって指導があれば意識が注がれ、膝についても内側に入らないように股関節外旋筋を緊張したりしますが、普通は意識していないと思います。こうした運動目的以外の筋肉も対応している点から反射と言えます。

リズムは、始めは随意運動で途中は反射的活性そして終わりは随意運動になります。たとえば歩行やランニングが典型的です。歩行やランニングなどいちいち足を前に出すために足関節を背屈し、膝を曲げ、大腿部を上げてなど意識してられない。逆側の脚部全体を真逆の動きで一連に行い、それが髄運動でやめるまで連続です。

スポーツならウォームアップで用いる「ラダー」や陸上のスキップなどもリズムになります。何度も繰り返し身体に覚え込んだ動きなので、考えずにその動作ができ、むしろほかのことも意識できたりします。

複雑なラダーのステップワークも意識的に一つ一つの関節を屈伸するのでなく、むしろ身体のバランス、平衡感覚を保ちながらリズムでおこなっています。身体のバランスは先ほどの対応型の反射になります。

練習で習得したリズムはその動作スピードを上げることもできます。複雑な動きの究極はダンスやバレエかもしれません。動きを習得したなら完全に覚えたならリズムになります。

対応型

先ほどの運動中の身体のバランスや平衡感覚も表現の練習中で鍛えることができます。たとえば一輪車やスキー、アイススケートなども意識的に脚を操作しますが、体幹から頭の位置が転倒しないような緊張の仕方を覚え、目的の動作をリズム良くできるように貢献します。意識的に動かす動作とは別に身体バランスを調整している機能は無意識的であり、対応型と言えます。

固有受容器

私たちの動作は、末梢感覚、視覚、内耳にある三半規管前庭器からの情報を処理しながら行っています。固有受容器と呼ばれる末梢感覚からの情報で私たちは時空間の中で四肢(腕や脚)の位置を知ることができます。固有受容器には筋肉の長さや収縮速度を察知している「筋紡錘」、運動負荷や筋肉の張力を察知している「ゴルジ腱器官」があります。

ストレッチ

ストレッチはこの固有受容器を上手く刺激すると、相反抑制や自己抑制などが筋肉で起きリラックスに作用します。

相反抑制とは動かく筋肉を主導筋と呼び、その裏側の筋肉のことを拮抗筋と呼びます。たとえば肘を曲げるなら上腕二頭筋は主導筋になり、裏側の上腕三頭筋は拮抗筋になります。肘を曲げる際にわざわざ上腕三頭筋を大脳がリラックスの指令を出さなくても脊髄レベルで抑制してくれます。このことを相反抑制と呼んでいます。

自己抑制は重たい物を持ち続け、これ以上筋肉を働かせるなら怪我をするかもしれないので主導筋自体を抑制させる仕組みのことです。これも脊髄レベルで調節されています。

マッサージ

ストレッチは単関節でなくむしろ複合関節でも行うことができ、筋肉を弛緩させるのに有効です。一方でマッサージは気持ちよく「もっともっと」が働くばかりで、終わったは20分もすればマッサージを受けていた感覚を忘れます。むしろ下手なマッサージを受けると逆に時間の無駄や怒りすら覚えたりします。実はこれらすべてドーパミンという脳内物質の作用によるものです。これについては筋肉の張り解消法その5をご覧いただければ幸いです。

リハビリテーションエクササイズ

スポーツで怪我をした後、痛みが取れれば再発予防のためにリハビリテーションエクササイズを行います。このエクササイズは室内で行われます。怪我の箇所にもよりますが、単調な屈伸運動から様々な運動器具を用いた特別な運動があります。これら室内で行うエクササイズすべてが固有受容器を刺激しながらの運動になります。意識的に四肢を動かす中、私たちはその上肢や下肢の位置を知覚します。

リハビリテーションにおけるエクササイズのパターンを6つの神経学的な視点で考えることができます。6つの視点を理解すれば、あとは応用になり、さまざまなエクササイズも解釈でき、さらに創意工夫できるのではないかと考えます。是非マガジンで少しでも多く学んでいただければと思っています。

プロフィール

アメリカ・カリフォルニア ・サンノゼ州立大学大学院アスレティックトレーニング教育プログラムの主任を8年間(2012年から2020年まで)務めました。2021年から2022年はCAATEアスレティックトレーニング教育プログラム臨床コーディネーターを担当し、また学科専門科目の運動学習(Motor Learning)も担当しました。

その間の10年間、サンノゼ州立大学ベースボールチーム(NCAA-D1)と研究活動を行うことができました(原著論文20+)。研究は、ランダム化比較研究症例研究前向き研究を含めた「投球障害肩の予測」を行い、一方で「投球障害肩予防トレーニング」をEMGを用いて行いました。投球障害肘は、MLB・サンフランシスコ・ジャイアンツチーム整形外科医のDr Akizukiからトミー・ジョン術およびインターナルブレイス修復術の手術を7か月間、執刀医の真横で学ばさせていただきました。これについて日本野球学会誌に発表しました。

2012年8月に渡米し、2023年3月に帰国するまでの10年半は、専門家として計り知れない経験と機会をもつことができ、今後これらの経験を少しでも多くの方、とりわけスポーツ、アスレティックトレーニングの専門家に伝達、共有することができればと思っています。

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