ウォーターホルダー

投球・サーブ障害肩予防トレーニング

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UCLハイブリッド術

大谷選手

 大谷翔平選手が19日現地時間に投球側の内側側副靭帯(UCL)手術を受け、翌日からメディアはこのことを取り上げました。術後に担当執刀医のDr. Neal ElAttracheは声明文を発表しました。その文から見えてくる内容を解説してみたいと思います。

“The ultimate plan after deliberation with Shohei, was to repair the issue at hand and to reinforce the healthy ligament in place while adding viable tissue for the longevity of the elbow.

“was to repair the issue at hand”

 これは、「目の前に置かれている(少々意訳)の問題を解決することだった。」”Repair”は医療の場合「修復」や「修復術」として使われていますが、一般には「直すこと」です。”the issue”は「問題」でこの場合大谷選手の肘の再損傷のことです。

“reinforce”は補強

 ”Reinforce”は補強することです。軍隊用語で兵、武器を補充(補強)することです。これを「強化」と訳すとニュアンスは変わります。

“the healthy ligament”

 次に、”the healthy ligament”は健康な靭帯ですが、自家腱移植のことです。逆側の長掌筋腱か、大腿内側部の薄筋腱か、どこの腱を採取したのかわかりませんが、靭帯に置き換えたことです。腱と靭帯は同じ緻密性結合組織です。採取した腱をグラフト(移植)用の靭帯に整えたので、”the healthy ligament”と説明されたと思います。

“adding vaibale tissue”

 “adding viable tissue”はインターナルブレスのことです。残念ながらインターナルブレスは日本の医療では認可されていません。ちなみにアメリカでは、スカラシップで進学希望する高校生や大学生あるいはマイナーリーグの投手に使われています。その他のオーバーヘッド選手にも採用されています。しかしメジャーリーグの投手にはこれまで採用していません。(下記のインターナルブレスのデモンストレーションビデオをご参考にしてください。)

“in place”

最後に”in place”は適切なところ、つまり傷んだ前斜走靭帯があるところにと言う意味です。前斜走靭帯は投球で痛める肘の靭帯のことです。

Procedure

 声明文からだと今回の大谷選手が受けた術法(Procedure)は、ハイブリッド術だったと確信します。最初に自家腱を移植し(トミージョン術)その後にインターナルブレスで補強した形です。Dr. ElAttracheはそのように説明していました。前田健太選手もこのハイブリッド術を受けています。ですので新しい術法でなく、MLBの投手にはハイブリット術が行われる傾向です。

インターナルブレス修復術

 インターナルブレスは人工靭帯に加え、縫合用の糸が2つ出ています。損傷あるいは部分断裂した靭帯を修復するためにです。もともとインターナルブレスは修復術になります。縫合だけでは術後の成績が良くなく、結果的に人工靭帯で補うようになったのです。ビデオで見てわかる通りに簡単な修復術ですし、補強(人工靭帯)が加わったことでが術後の成績は良好です。しかしMLBの投手にはインターナルブレスだけでは微妙なことが推察できると思います。

トミージョン術

 野球肘で最も多い手術介入がトミージョンと呼ばれている肘の内側側副靭帯損傷による再建術です。1974年にFrank J. Jobe医師によって初めて執刀され、その時の患者がメジャーリーグ(MLB)のTommy John投手でした。彼は再建術後にMLBで164勝を挙げ、このことからトミージョン術と呼ばれるようになりました。肘の内側側副靭帯は前腕小指側の尺骨(ulna)に付いていることからアメリカではUCL(ulnar collateral ligament)と呼び、その損傷をUCL損傷、トミージョン術あるいはUCL再建術と呼んでいます。
トミージョン術が行われるまではUCL損傷は投手キャリアの終了を意味していました。Jobe医師はその後16人の投手にUCL再建術を行い、2年間の追跡調査の結果、63%の患者が術前と同じレベルで復帰したことを報告しました。

健康と外傷・障害追跡システム

 2010年までトミージョン術は年に数件でしたが、2010年以降みるみるうちのその件数は増え、年間数十件執刀されるようになりました。その理由はMLBに画期的なシステムが導入されたからでした。2010年MLB機構とMLB選手会が「健康と外傷・障害追跡システム」(Health and Injury Tracking System:”HITS”)構築に関する合意がありました。このことでMLBおよびマイナーリーグに所属する選手すべての外傷・障害を電子で記録することになり、特に肘のUCL損傷は選手に症状が出た時からチームは入力する義務があり、選手が引退するまで追跡することになりました。その間どのような治療を受けたのか、MRIなど画像診断があったならばその画像、再建術あるいは修復術を受けたならどのような手術方法で医師は誰だったのかなどカルテの情報すべてを電子メディカル記録に報告することになりました
この結果2013年以降、MLBのUCL損傷およびトミージョン術に関する論文が増え、2013年は2本だったのが2019年は13本とこの10年間で70本以上の学術論文が出版されました。PubMedという英文誌医学検索で”ulnar collateral ligament”と”MLB”を入れての結果です。
HITSは、研究者にUCL損傷メカニズムの好奇心をそそり、医師はトミージョン術のリスク管理情報を共有し、選手には選択権を与え、球団は大型契約を結ぶ際の材料に使います。そして野球をする大学生からスカラシップで進学を希望する高校生にまでも影響を与えました。

PITCHf/xシステム

 現在MLBの各球場にはPITCHf/xシステムが設置されていて、公式戦に登板した投手の球速、球種、投球数が記録されています。このことと追跡システムとでUCL損傷メカニズムを分析しています。しかし今のところ分かっているのが最高球速95.7 mph(154 km/h)以上を投げる投手の20%はUCL再建術の可能性があることです。しかし球速との関係を示した論文はありますが、それ以上のことは明らかにされていません。

KJOCスコア

KJOC (Kerlan-Jobe Othopaedic Shoulder & Elbow) スコアを早稲田大学スポーツ科学学術院の広瀬統一教授とで日本語に翻訳しました。翻訳後に母国語が英語で日本語が堪能な同学術院のトンプソン教授に英語(back translation)にしていただき、さらに原本のKJOC Scoreとback translationされたKJOCスコアをテニス、投球障害肩の臨床、研究において第一人者であるTodd S. Ellenbecker氏に検証していただき、その内容に違いないことを承認していただきました。

今後、私たちの臨床および研究活動でこのKJOC用紙を公式に使っていきます。

KJOCスコアについて、私たちは大学(NCAA-D1)投手と野手の肩甲骨運動異常(scapular dyskinesis)の有無を対象にシーズン前とシーズン後のアウトカムとして用い、ランダム化比較試験を行いました(Tsuruike, Ellenbecker, Hirose 2018)。その結果、肩甲骨運動異常を示す投手はシーズン前に比べシーズン後のKJOCスコアが有意に減少させた。一方で肩甲運動異常を示さなかった投手はシーズン前後のKJOCスコアに有意差はなかった。これに対し野手は肩甲運動異常の有無に関係なくシーズン前後のKJOCスコアに有意差はなかった。この報告についてはブログをご参照していただければ幸いです。

KJOCスコアに関する最新出版です。[下記の表紙クリックで論文(PDF)をご覧いただけます。]

最新論文出版

側臥位で90°肩外転位に肩甲骨を内転させ少し肩を水平内転させた運動で効果的に僧帽筋下部線維を活性化し、一方で他の周辺の筋活動を抑えることができました。投球障害肩リハビリエクササイズでこれまでにない、画期的な運動方法だと思っています。論文はフリーアクセスできます。

室伏スポーツ庁長官

室伏広治スポーツ庁長官にお会いして来ました。室伏長官とは以前から研究で知り合っていたのですが、実際にお会いしたのは今回が初めてでした。

まずはサンノゼ州立大学での10年半の教員生活と研究活動を話し、その後サンノゼで出会った日系アメリカ人の方々のことを話しました。長官も現役選手時ベイエリア(サンフランシスコ湾近郊)に来られ、トレーニングを積まれていました。共通の日本食レストランや日本のパン屋さんの話にもなり、意気投合しました。外国で出会う日本食はまた違った意味で感動をするものです。

そして何よりも深くお話できたことは、日本では知らなかった日系アメリカ人の苦労と活躍でした。私が最初から最後までお世話になった日系アメリカ人2世の方と長官もお話されたことがあり、共通の知人だったことでその方のこれまでの業績を話した際は長官も大いに感銘をされていました。

その後は、研究活動で意見交換ができました。長官の紙風船を用いた研究論文や、一人でできる動きのチェック項目では長官自ら実践していただきました。面接は1時間の予定だったのですが、1時間半に及び有意義な機会となりました。

Dr. Akizukiとの再会

5月13日にDr. Akizukiと再会しました。Dr. Akizukiは、MLBサンフランシスコ・ジャイアンツのチーム整形外科執刀医です。何十年も投手のトミージョン手術、インターナルブレス修復術をされています。日本人選手にもされています。私も2019年から20年までDr. Akizuki医師の手術を間横で見学させていただきました。毎週水曜日、朝7時から最後終わるまで見学し、いろいろ教えていただきました。一日5件の手術はされていました。たくさんのトミージョン手術、インターナルブレスによる再建術、SLAP損傷修復術など見学できたことは幸運でした。

Dr. Akizukiは5月11日から14日までパシフィコ横浜で開催された日本整形外科学会の外国人講演者の一人に招聘され「Orthopaedic Aspects and Controversies in Baseball in the US」を話されました。

個人的にお話する機会があり、最近の2年間は肘のUCL再建術にはハイブリッド術を採用していることを聞きました。これは従来のトミージョン手術に加え、上からインターナルブレスを当てるものでした。現在ミネソタツインズでプレーしている前田健太選手もこのハイブリッド術を受けました。

MLBとしてトミージョン術後、再再建術が発生していて、それが術後平均3.8年であることでした。あくまでもMLBとしてであり、また術後からの平均年数のことです。全員がそうではありません。ダルビッシュ有選手や大谷翔平選手のことではありません。ただUCL再再建術が発生していることから取り入れられたのがハイブリッド術でした。

私が見学していた2020年まではDr. Akizukiはこのハイブリッド術を採用していなく、むしろ尺骨側にグラフトを通すために横に向けてトンネル開け、加えてアンカーを留めるためにもう一つ上から穴をあけることで骨が崩壊するのではないかと指摘すらしていました。ちなみに上腕骨内側上顆の方は縦に一つの穴を開けてすべてドッキングさせると話していました。

トミージョン術後のMLB現役選手の平均は4.8年と報告されています (Camp 2018)。これもあくまでもMLBとしての平均であり、すべてがそうではありません。

Dr. Akizukiは、MLBの投手は大きな契約となり、ベストの選択が求めらとのことでした。手術の選択は球速で決まるとのことでした。たとえば尺骨神経炎だと小指側にしびれがあったとしても球速は落ちない。しかし尺側側副靭帯が損傷すると球速は落ちる。球団は球威が落ちた投手とは契約しないとのことでした。

最近も大型契約でMLBに挑戦する日本人投手がいます。その際MRIで徹底的に肘の検査があります。検査次第で契約金が変わるほどです。あるいは5年契約ですぐに手術をして残り3年プレーする選択もあるが、そこは選手の選択になります。球団はメディカルの提案に基づて契約をする。あらゆる投手の潜在する障害リスクから回避しようとします。ちなみに現在オークランド・アスレティックスでプレーしている藤波晋太郎選手の肩、肘は完璧だと、Dr. Akizukiは言っていました。彼の体格、球速の潜在能力からはもっと期待できるはずだが、今のところ3回までとのことです。最初に打たれるが次の3回は完璧、あるいは最初の3回は完璧だが、次の回で崩れる。

Dr Akizukiのようなドクターが日本には必要だと思いました。エビデンスを共有し、エビデンスに基づき判断する。SFジャイアンツも投手獲得にはDr. AkizukiのMRIによる診断が不可欠です。このようなドクターと出会えたことは本当に光栄だと思いました。

肩甲面での外転運動 “Scaption”

肩甲上腕関節(肩関節)の外転を肩甲面で行うことを“Scaption”と呼んでいる。Abduction in the scapular planeからの造語である。肩甲面とは、肩甲骨が胸郭(の楕円形)に合わせて前額面(身体を前後に切る面)から40°前方に傾いているところを言う。肩甲面で親指を上に向けて腕の上下運動を行っても上腕骨大結節と烏口肩峰靭帯が衝突しないため、違和感なくスムースに腕を上げることができる。

図は肩甲面で前額面から40°前方に傾いていることがわかる。Oatis 2004から転用。

腕を上げることで生じる肩甲骨の上方回旋は、僧帽筋上部線維と僧帽筋下部線維とのフォースカップリング(協力)で起きる。(加えて肩甲骨内側縁から肋骨に伸びている前鋸筋も関与するがこれについては後で話す。)この二つの筋活動の割合は腕の外転角度で異なり、さらに立った姿勢(立位)あるいは四つんばい、うつ伏せ(腹臥位)でも変わる。つまり重力の方向でその割合が変わる。

図は僧帽筋上部線維と僧帽筋下部線維のフォースカップリングによって肩甲骨上方回旋が生じていることがわかる。Oatis 2004から転用。

ScaptionにおけるUT/LT

Scaptionを立位で行うと僧帽筋上部線維(upper trapezius: UT)/僧帽筋下部線維(lower trapezius: LT):UT/LTの割合は常に「1」以上で、体側から腕を上げ始める時は「2」で外転90°においても「1.7」である。つまり常に僧帽筋上部線維がより大きく関与する。それに対し、四つんばいでScaptionを行うと僧帽筋下部線維が肩甲骨上方回旋に最初から大きく関与していて、120°から135°を超えるあたりから僧帽筋上部線維が僧帽筋下部線維と同じぐらいの働きになる。

写真は、異なる姿勢での肩甲面での外転運動(scaption)である(Tsuruike 2019)。

図は被験者が5秒間かけてスムースに肩甲面で外転している運動(Scaption)で、横軸は最初5つの棒グラフが立位でのScaptionの1 – 5秒、真ん中が四つんばいの1 – 5秒、右が腹臥位の1 – 5秒を示している。運動開始3秒後がだいたい外転90°。縦軸が僧帽筋上部線維/僧帽筋下部線維(UT/LT)の筋活動の割合である。赤の破線がその割合が1のところである。* p < 0.05(Tsuruike 2019

6バックス・エクササイズ

Oyama(2010)らが6バックス・エクササイズでの筋活動を報告している。運動はすべて肩関節水平外転であり、腕の位置が1)90°外転2)90°+外旋3)120°外転4)120°外転+外旋5)45°外転に肘を90°屈曲6)完全伸展であった。すべて水平外転運動は負荷なしの6秒間で、その際に被験者には「両方の肩甲骨を引き寄せるように」との指示があった。

写真は6バックス・エクササイズ(Oyama 2010)。

6バックス・エクササイズで肩甲骨を引き寄せるには菱形筋を活性させなければならない。菱形筋と共同に働く肩甲挙筋も必然的に働き、それに並行に走行している僧帽筋上部線維も働くことになる。その結果肩をすぼめやすくなる。特に外転120°では僧帽筋上部線維の働きが最大筋活動の70%前後であった(Oyama 2010)。

肩に症状のある患者は特に僧帽筋上部線維を抑制する必要がある

肩甲運動異常やインピンジメント症候群の患者は僧帽筋上部線維の過剰な活性が指摘されている(Michener 2016)。症状のある患者は僧帽筋上部線維を抑制させながら肩甲骨上方回旋ができるように訓練を受ける必要がある。

写真は、肩関節120°外転位において僧帽筋下部線維と腕が一直線上になることが示されている(Reinold 2009)。このことから臨床において外転120°位での水平外転が勧められた。しかしまず選手は、腹臥位の肩関節伸展運動で僧帽筋上部線維の抑制をしっかり意識させてから行うべきである。Oyamaらの報告では腹臥位での伸展運動は僧帽筋上部線維が最大筋活動の15%しか働かないことを報告している。肩関節伸展運動で僧帽筋下部線維を活性化させてからの外転120°位での水平外転運動になるだろう。

四つばいScaptionで僧帽筋下部線維は活性する

一方で、四つばいScaptionは僧帽筋上部線維の活動が抑えられる。四つんばいでダンベルをもってScaptionを行っても外転120°までなら二つの筋の割合 (UT/LT) が「1」以下である。肩甲骨を引き寄せずに行い、僧帽筋下部線維を活性化させることができる(Tsuruike 2019)。

立って腕を上げれば前鋸筋は活性する

立って腕を上げるだけで前鋸筋は活性する(屈曲あるいはScaption)。立位において4 kgのダンベルでScaptionすると外転135°あたりで前鋸筋は最大筋活動の90%以上の活性に達する。

 

Oatis 2004から転用。

図は被験者が5秒間かけてスムーズに肩甲面で外転している運動(Scaption)で、、横軸は最初5つの棒グラフが立位でのScaptionの1 – 5秒、真ん中が四つんばいの1 – 5秒、右が腹臥位の1 – 5秒を示している。運動開始3秒後がだいたい外転90°。運動負荷は△実線が負荷ゼロ(0)、◯破線が1.7 ㎏、◇破線が4.1 kgである(Tsuruike 2019)。縦軸は前鋸筋の筋活動(%MVIC)。

シャラポワ・エクササイズ

壁から1足分離れたところに立って前腕を壁に付け、肩甲骨を最大外転し、腕を挙上させる。手にチューブを付けることで外旋運動も行える。元プロ女子テニス選手のマリア・シャラポア選手が好んで行っていたウォールスライドエクササイズなので巷では「シャラポワ・エクササイズ」と呼んだりもした。

フォロースルーエクササイズで前鋸筋は活性する

Henningらの研究では7 oz (198 g) あるいは12 oz (340 g) のウエイトボールをもってコッキングからフォロースルーまでの動作の前鋸筋活動を調べた結果、最大筋活動の83%まで活性することが報告された。

片膝たちフォロースルーエクササイズは前鋸筋を活性させる運動になる。選手は後ろから投げられたウエイトボール(0.5 – 1 kg)をキャッチしフォロースルーを行う(下の動画参照)。

片膝たちフォロースルーエクササイズの動画:IMG_2722

フリーモーションエクササイズで試合後の回復

軽い負荷のフリーモーションエクササイズで試合翌日の肩甲骨周辺筋群の回復を試みる。

キネティックリンク

キネティックリンクは上肢の連動のことで、体幹からの力、エネルギーが手先まで順次伝わることである。腕や前腕のひねりも生み、まさしく投球やテニスサーブ動作がそうである。

Kibler 2008

Kiblerらケンタッキー大学レキシントン・クリニックスポーツ医学センターグループがRobberyとLawnmowerエクササイズを紹介してから臨床で肩のリハビリトレーニングメニューに取り入れらるようになった。

     

写真はKibler 2008 が提唱したRobbery(左2つ)とLawnmowerエクササイズ(右2つ)

Robberyエクササイズ、Lawnmowerエクササイズはキネティックチェーンエクササイズ、つまり一連動作のフリーモーションである。本人の感覚運動で肘の位置を確認しながら行うことになる。

僧帽筋下部線維

KiblerらはRobberyエクササイズもLawnmowerエクササイズも肩甲骨の上方回旋・下方回旋が「肩甲面」であり、運動中には肩甲骨の内旋・外旋、前傾・後傾もある。これら一連の動きの重要性を強調している。(肩甲面とは肋骨のカーブに沿って肩甲骨が水平面から前方に30°-40°傾いていることである。)

一方、筋電図でデータを取ってみるとRobberyエクササイズで腕を90°まで上げて中程度(最大筋力値の50%以下)で、Lawnmowerになると最大筋力値の30%以下であった(Tsuruike 2015)。さらにRobberyエクササイズの研究を続けると肘の高さつまり腕を外転させばさせるほど僧帽筋下部線維の筋活動は上がる一方で、僧帽筋上部線維、三角筋の筋活動も活性する。そこでRobberyエクササイズで腕を90°まで外転するなら下肢の伸展運動を入れるべきだと結論付けた(Nakamura 2016)。

図は、毎秒のメトロノームに合わせたRobberyエクササイズを電子センサーで関節角度計(Biometrics Ltd)を肘に付け、運動開始から1秒間の筋電図値(2つの縦破線間)を示した典型的な波形である。SAは前鋸筋、LTは僧帽筋下部線維、PDは三角筋後部線維、ISは棘下筋。一番下の波形が肘の角度。被験者は最初のメトロノーム音で腕を上げ、次の音で腕を降ろす(Tsuruike 2015)。

EMGの研究

データ収集から見えてきたのは、RobberyエクササイズもLawnmowerエクササイズも僧帽筋下部線維をさほど活性させない。ダンベルの重さを上げたり、腕を肩外転90°まで上げると、三角筋、僧帽筋上部線維が過剰に働く。下肢の伸展運動を入れると逆に筋活動が低下し過ぎるなど、データだけに目を向けるていると運動の意図を見失ってしまう。

図は、僧帽筋下部線維の筋電図値(MVIC%)。運動強度は体重の3%、5%、7%のダンベルで(体重70 kgだと2 kg、3.5 kg、5 kgのダンベル)Quadruped shoulder flexion:四つんばいになって腕を前へ上げる(肩関節屈曲)、Robbery、Lawnmowerエクササイズを行った。また等尺性筋収縮でExternal rotation:立位で肩関節屈曲30°、肩甲骨内旋30°ロードセルを30°に傾けたレバーアームでの肩外旋運動 Abduction:座って肩外転90°での外転運動を行った。運動負荷は最大筋出力(MVIC)の20%、30%、40% だった(Tsuruike 2015)。

3つの関節と7つの自由度

上肢のフリーモーションには、腰に差してある刀を抜く動作(PNFのD2パターン)やシートベルトを引っ張る動作(D1パターン)など、肩関節、肘関節、手関節が順次に動かす動作がある。上肢のフリーモーションとは順次に動く7つの自由度のことで:肩関節屈曲・伸展、外旋・内旋、水平内転・水平外転、肘屈曲・伸展、手関節屈曲・伸展に撓屈・尺屈が含まれる。肘が曲がっているなら前腕の回内・回外も起こる。これこそがRobberyエクササイズとLawnmowerエクササイズの目的である。

肩や肘に障害また内視鏡で縫合手術を受けたあと、関連の筋肉は「引っかかり」を生む。そん時は体側近くのRobberyエクササイズあるいはLawnmowerエクササイズを行う。7つの自由度を含む複雑な運動は、痛みや違和感で動かしにくい筋、筋内の引っかかりを周りの筋群が代償として運動し、運動後は「痛み抑制」(Pain inhibition)を高めることになる。痛み抑制の増加は柔軟性を向上につながる。

試合翌日のアクティブ回復

RobberyエクササイズもLawnmowerエクササイズもダンベルだけでなくチューブやメディシンボールでも応用できる。Robbery、Lawnmowerエクササイズは投球や試合翌日に行うことで肩甲骨周辺筋群の回復が期待できるだろう。試合後のエクササイズなら2 kg 前後のリストカフでしっかり肘の開始と最終位置を確認しながら15回2-3セット。片足立ちでさらに全身の緊張から腕の感覚運動を確認。

メディシンボールも有効である。

 

投球肘損傷の重症度と復帰率

2006 年から2011年の間にメジャーリーグ(MLB)とその傘下のマイナーリーグ(MiLB) 6球団で肘尺側側副靭帯(UCL)損傷が43 件あった。43件の損傷を4 つの重症度別に分け、追跡調査を行った報告があった(Ford 2016)。

重症度I 完全な靭帯で浮腫があるもしくは浮腫もない
重症度IIA 部分損傷
重症度IIB 慢性治癒外傷(カルシウム沈着から石灰化)
重症度III 完全断裂

結果は、重症度III の選手8 名はすべてUCL再建術(トミージョン手術)を受け、うち6 名(75%)が競技復帰(return to play: RTP)、しかし5名(63%)の選手が術前と同じレベルまで復帰できた(return to the same level of play or higher: RTSP)。

それに対し重症度IIAあるいはIIB の選手7 名がUCL 再建術を受け、7名すべて(100%)復帰(RTP)で、6 名(86%)はRTSPまで復帰できた。再建術を受けなかった選手28 名のうち、重症度I の4 名すべてはRTSP(100 %)まで復帰でき、重症度IIAは6 名中5 名がRTSP(83 %)で、重症度IIBは18 名中17 名がRTSP(94 %)まで復帰できた。

ベテラン投手

ベテラン投手は、UCL再建術後1年以上のリハビリテーションを要することから、選手生活を失うことを避け保存治療を選択する傾向にあった。保存治療は6 週から8 週を要し、その後の症状によってリハビリテーションを継続するかUCL再建術を選択するかを決定することになる。再建術前のリハビリテーション期間の平均は46 日間であったFord 2016)。保存治療後に投球プログラムが再開されるので、RTPにはさらに数週間を要することになる。

初回のUCL損傷であれば保存治療の選択も有効だが、重症度から見分ける必要があるだろう。あくまでもUCL再建術は重症度に関係なくプロ投手としての選択になる。

図は、プロ投手43件のMRIによる肘内側損傷の重症度別と追跡結果。損傷度(Grade)I = 完全な靭帯で浮腫があるもしくは浮腫もない、Grade IIA = 部分損傷、 Grade IIB = 慢性治癒外傷(カルシウム沈着から石灰化)、Grade III = 完全断裂。RTP, return to play(競技復帰); RTSP, return to same level of play or higher(術前と同じレベルまで復帰); UCL, ulnar collateral ligament(尺側側副靭帯)(Ford 2016

肘の遠位部損傷

プロ投手で急性UCL損傷を患った39 名中33 名(85 %)が保存治療を選択した。最終的には32 名の投手を追跡調査した結果、34 %(11/32 名)が保存治療による改善がみられずUCL再建術(トミージョン手術)を受けることになった。11 名中9 名(82 %)が遠位部損傷であったFrangiamore 2017)。

図はMRIによるUCL損傷度合いと損傷後初期治療。黒で示した量は保存治療の割合で白はUCL再建術(トミージョン手術)の割合。遠位部[尺骨側(Distal Tear)]損傷の選手31% (4/13)が保存治療で復帰、それに対し69% (9/13)の選手は再建術で復帰。損傷重症度(High-Grade Tear)の43% (6/14)が保存治療で復帰、57% (8/14)の選手は再建術で復帰。慢性損傷(Chronic Changes)の84% (16/19)の選手は保存治療で復帰、16% (3/19)の選手は再建術で復帰。遠位部(尺骨側)損傷が重症度(High-Grade& Distal)の選手88% (7/8) は保存治療が経過不良(Frangiamore 2017)。

肘内側遠位部(尺骨側)の安定性が重要

以前のブログでも話したのですが、遠位部(尺骨側)の損傷は近位部(肘側)の損傷に比べ保存治療による経過不良の症例が12.4 倍であった。(Fragiamore 2018)。解剖用屍体を使ったバイオメカニクスの分析からも近位部(肘側)に比べ後方遠位部(尺骨側)が回旋抵抗(外反に対し)に最も安定性に生んでいることを示していた。このことから遠位部(尺骨側)の損傷は致命的になり、投手にとって肘遠位部損傷の保存治療は厳しくなる。MRI 検査でも29 名中UCL遠位部の部分断裂を起こした7 名の選手すべてに多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma:PRP)療法を施したが、やはり成績は不良であった(Dines 2016)。

Milking Maneuver Testによる肘屈曲90°において尺骨側に痛みがあるのか、Moving Valgus Stress Test肘屈曲のどの角度で尺骨側に痛みがでるのかを確かめる必要があるだろう。その上で専門医師によるMRI画像での診断を仰ぐことになるのは間違いない。

腰痛予防と内腹斜筋

腰痛の原因に内腹斜筋の不均等な筋活動が指摘されている。内腹斜筋は胸腰筋膜を介して腰椎を安定させている。たとえば思春期後期のサッカー選手の腰痛は内腹斜筋の左右不均等があるLinek 2018)。また腰多裂筋も直立位において腰椎を安定させている(Hides 2016)。このことから腰痛は腰多裂筋の萎縮にも関係しているGoubert 2017)。

図はOatis 2004から転用。Internal Oblique:内腹斜筋。

図はOatis 2004から転用。Multifidus:(腰)多裂筋。股関節屈曲筋である腸腰筋に対しての拮抗筋。

上肢の運動と立位の研究から内腹斜筋は片足の荷重側において活性し、腰多裂筋はタンデム立ちで活性する(コアスタビリティエクササイズ)。投球やサッカーボールを蹴るなどの全身スキル運動において体幹の筋群は下肢から上肢への連動に不可欠であるKibler 2006)。

体幹筋の活性は最大筋力10%

日常生活での体幹筋は最大筋収縮の5%、激しい運動でも10%程度しか活動していないKibler 2006)。体幹筋は随意運動でなくむしろ不随運動である。この場合の不随運動は脊髄反射でなく、脳幹から下降している錐体外路の命令(神経学的な言い方)のことである。錐体外路は、さまざまな情報を受けて随意運動の遂行、達成を補助している(Lemon 2008)。

あお向けや横に寝た姿勢でのエクササイズ

内腹斜筋を活性させる運動として片足ブリッジ、バードドッグ、プランクエクササイズが挙げられている。あお向けや四つんばいでの体幹エクササイズは随意運動として体幹筋を活性することができる。しかし片足ブリッジ(Stevens 2006)、バードドッグ、プランクエクササイズ(Imai 2010)での内腹斜筋の筋活動はせいぜい最大筋活動の20 – 40%である。直径65 cmのゴムボール(通称Swiss Ball)を使ってロールアウト、パイク、スキーヤーエクササイズでも最大筋活動の40 – 50%程度であるEscamilla 2010)。

写真はパイク(左)、スキーヤー(右)エクササイズ(Escamilla 2010

内腹斜筋最大筋出力の測定方法

ちなみに筋電図で内腹斜筋の最大筋出力を測定する方法は、まず被験者にあお向けに寝てもらい股関節と膝関節を45°に曲げてへそを背骨に吸い込ませるようにドローインしてもらう。それを保ちながら肩甲骨が床から上がるか否かの高さで最大のアブドミナルクランチをしてもらい、そこから検者が被験者の両肩を上から最大に押した値を最大出力(100%)としている。被験者も検者も結構必死になって最大値を決めている。

ツイストエクササイズ

特注のツイスト盤の上で被験者に盤の上でツイストしてもらった。盤は下の土台に対し上の円盤が回転するような仕組みである。被験者には毎分90回と150回のメトロノームに合わせて左右各45°の合計90°のツイストを20秒間してもらった。また各速度において1)膝伸展位2)膝関節30°に曲げた運動ポジション3)スクワットの姿勢から一つの方向に膝伸展、逆方向に膝屈伸のスクワットの3種類のツイストを行ってもらった。どのツイスト運動においても両肩は極力正面に向けた姿勢を保ってもらい、腕はフリーに動かしてもらった(Tsuruike 2020)。

 

写真は膝伸展(左)、運動ポジション(右)

毎分150のメトロノームに合わせた膝伸展ツイスト運動の動画:

結果、膝伸展を保ちながら毎分150回のツイストで内腹斜筋は最大筋力の60%以上を活性させることができた。実験データの有効性を確保するために被験者にはツイスト運動の後に片足ブリッジ、バードドッグ、かかとと膝がしらのラインを整えた片膝つき姿勢で内腹斜筋を測定したが、どの運動も最大筋力20%にも達しなかった。

図は毎分150回のツイスト運動中の内腹斜筋の筋電活動。SLは膝伸展、APは膝屈曲位30°の運動ポジション、DEは連続スクワット。DOMは利き脚(ボールを蹴る側)(黒)NONは非利き脚(軸足側)(灰色)。縦軸は最大筋出力の割合(%)* P < 0.05

   

写真は片足ブリッジ(左)、バードドッグ(真ん中)片足膝たち姿勢(右)

腰方形筋と横隔膜

体幹の動きに働く筋としては腰方形筋がある。腰方形筋は前額面の安定だけでなく体前屈、伸展、体側にも働く。さらに横隔膜の働きも腹内圧を高めることから体幹の安定に欠かせない。しかし腰方形筋と横隔膜の働きが腰痛を予防しているかは明らかでない。

内腹斜筋のトレーニング

内腹斜筋は股関節屈曲にも共同筋として働いている(Pereira 2017)。その上で内腹斜筋を鍛えるなら立位で膝伸展ツイストするか、データはないがサウンドバッグでキックしその時の荷重側の地面反力で鍛えるかになりそうである。しかしその際、荷重側の大殿筋が抗重力筋として働いているなら股関節屈曲筋は相反抑制になり、その結果内腹斜筋が働くかどうかわからない。

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